第14話 グラウンドの外でも

「まったく……何で俺まで。休日は籠って執筆したいのに……」


 ブツブツと文句言いながらキョーガクの校舎内に足を踏み入れるのはヒット。

 鋼のクラスは全員でラグビーの試合を応援に行こうという、入学してまだ間もないのに一致団結してしまったクラスの勢いに押されて、嫌々ながらに来てしまった。

 もし空気を読まずに断ったりサボれば、それはそれでメンドクサそうになると考え「やれやれ」という態度を前面に出し……


(これが共学の匂い……うわ、全然違う……うわ、結構女子の応援が多い……全員ビッチなんだろうけど、あ、あれ可愛い……いやいや、どーせイケメンとかカースト上位のハーレムクソ野郎に尻尾振るビッチに決まってる)


 中学時代からあまり女子に対して良い印象を抱いていないヒットは、ラグビーの試合前に「きゃっきゃっ」としている女子を見るだけでイライラする……一方で、それでも男子である以上可愛い女の子がいれば目で追ってしまったり、少し緊張したりと色々と気が気ではなかった。

 一方で……



「「「「「オー、我ら武蔵来栖! オー、我ら武蔵来栖! その名、我らの青春の光たれ~~♪」」」」」


「う、うわ……」



 グラウンドの横に肩を組んで大声で校歌を熱唱している男たちがいた。

 私服姿の男たちのほとんどは自分と同じクラスの者たちだということに気づいたヒットは恥ずかしくなり、しかもキョーガクの女子たちから苦笑されているのを見て、帰ろうかとも思い始めた。

 しかし……


「ぷっ、なにあれ~。だっさ。ムサクルってあんなの?」

「ださいよね~、しかも坊主ばっかだし~、それに比べてうちは、池免田センパイを始め、カッコいいよね~」

「うん。ほとんど彼女持ちみたいだけど、まだまだ私たちもいけるよね?」

「ねえ、あの子一年生? うわ~、かわいいー!」

「きゃー、がんばって~、道岩くんがんばってー! あっ、照れてる~、かわいい~!」


 ムサクルを鼻で笑いながら、自分たちの学校のラグビー部のイケメンたちに黄色い声援を送ってキャーキャー言ってるキョーガクの女生徒たちを見ると、ヒットは恥ずかしさよりもイライラの方が上回ってきた。


(なんだろう……是非ともダンシコーたちにあいつらぶっ殺してほしいな~……)


 ついこの間自己紹介したばかりのクラスメートの鋼に対して、変なことを心の中で願ってしまったりもした。


「仕方ない……読むのは後にするか……」


 最初は嫌々で、試合中も暇ならラノベでも読んでようかとも思って手に持っていたのだが、ちょっと自分も応援しようかなと思い始めたヒットは、手に持ってたラノベをカバンにしまおうとした。

 すると……



「あっ!? それは、『転生したらドリルでした』ではありませんか!?」


「ひゃっ?!」


「ちょ、雪菜……」



 急に女の子が自分の持っているラノベのタイトルを大声で。


(うわ、ビックリした……え? かわ、ぇ!? なに、超S級美女が俺に話しかける……わけないよな? でも、何で俺の持ってるラノベのタイトルを? いやいや、これはもうじきアニメ化するというほどラノベの中では有名作品であって、たとえリア充であろうとも知っているものは知っているというだけであって……うん、彼女がどうして転ドリの名前を口にしたかは分からないけど、別に俺に話しかけたわけではない。よし、状況把握終了)


 とりあえず、自分なんかが声をかけられるわけがないと思ったヒットは無視。

 しかし……


「あ、あの! えっと、すみません!」

「ふぁっ!?」

「うわ、……うわぁ、やっぱり転ドリですね!? しかもこれ……最新刊の!」

「あ……あの、あの……」


 勘違いではなかった。美少女は目をキラキラと輝かせて自分に話しかけてきた。


「ちょ、雪菜! な、何をやっているの!?」

「エルザは分からないのですか!? 転ドリは小説投稿サイトより生まれた名作中の名作であり、次期アニメ化最有力候補なのですよ!?」

「し、知らないけど……その……」

「ああぁ、まさかラグビーを見に来たら、同志と出会えるとは思いませんでした!」


 雪菜のその興奮のあまりに身を乗り出し、一気に距離まで詰めていく。その様子にエルザは呆れた様子だが雪菜は止まらない。

 そして、その近い距離から感じる女子特有の良い香りにヒットはクラクラしてしまった。



「あの、私は一年の東堂院雪菜と言います! あなた、お名前は? いえ、ひょっとして、先輩ですか?!」

 

「あ、は、い、俺は……佐塚です。一年です。ムサクル……です」


「ムサクル!? くっ、う……なんということでしょう……まさか、学校が違ったとは……同じ学校でしたらとことん語らいたかったのに、……うぅ……」



 自己紹介されて自分も最低限のことを教えた瞬間、雪菜はガックリと項垂れてしまう。

 先ほどまで目を輝かせてハイテンションからの急落ぶりに、ヒットもどうすればいいか分からずに、しかし放置するわけにもいかず、結局ムサクル応援団に合流できなかった。

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