第6話 最後の希望。美人女教師を求めて

「なるほど……萌えマンガ読んでる奴……不自然なほど茶髪にしている奴……いきなり教科書眺めてる奴……んで、俺と同じでスポーツやってそうな奴……」


 見渡す限り男子。これほどドキドキしないクラスメートとの顔合わせは、初めてだった。


「畜生! オタクとチャラ男とガリ勉と体育会系しかいねえ!」


 初めて出会うクラスメート達もそれぞれ顔を上げて、叫んだ檀詩鋼に注目する。


「ありえねえ! これからの学校行事、入学式、席替え、クラス替え、部活、学園祭、修学旅行、後輩の入学、卒業、全部男子しかいねえ! これからの生活は何一つドキドキするもんがねーじゃねーかよ!」


 初対面の連中の前で、どうしてこれだけバカを出せたか。それは、女子も居ないため、格好付ける必要がまるでないからだ。

 だから鋼も、今のでこれから三年間ずっとバカ扱いされても構わないぐらいの勢いで叫んだ。

 だが、



「「「「「その通りだ!」」」」」



 色々とキャラが別れていたクラスメートたちが同時同意した。

 その目にはうっすらと涙が溜まっていた。


「なあ? ありえねーっしょ! まじでダリい!」

「僕……エロゲーみたいな高校に行きたかった」

「俺は、弱小運動部でもいいから共学に行きたかった! マネージャーの彼女が欲しかった!」


 鋼と同じ想いをしているのは結構いた。


「……お前ら……いい! 何も言うな!」

「「「「おおお、友よおおおお! 共にこの地獄の三年間を乗り越えようぜ!」」」」


 彼らは、予選の決勝で負けて全国大会を逃した選手達のように泣きながら抱き合った。

 鋼は、とりあえず友達だけはすぐに出来た。


「ふむ、では何故この学校に入学したのだ?」


 一人だけ輪に入らないサンガの一言に、全員が互いの顔を見合った。


「偏差値が微妙に高くて大学進学も悪くなかった……」

「スポーツが強くて全国狙うにはいいとこだった……」

「親が進路を変えさせてくれなかった」


 皆、似たような理由だった。

 つまり、ここは男子校という点さえ除けば文句のない学校でもある。共学なら最高なのだ。そんな高校に入学できるとなれば、中学の教師も親も普通に大喜びなのである。


「いやさ、最初はもっと普通だと思ってたんよ。でも、あの入学式はねーは」

「ああ。学ランしかいねえ」

「まったくドキドキしなかった」


 皆同じことに絶望していた。多分こいつらとは仲良くなれそうだと、檀詩も少し嬉しかった。


「ったくよ、お前達もう少し考えろよ。この高校にだって希望はあるぜ?」


 すると、茶髪にピアスと男子校なのに無駄なイケメンな奴がキザったらしく割り込んできた。

 その言葉に全員が振り返る。


「お前ら、教師一覧の紙を見てねーの? 『家庭科』のところ!」


 教師? 全員が教師一覧を取り出して科目欄の名前を見る。


「天王寺亜利栖……アリス! うおおおおお、女だ!」

「しかもスゲー名前だ! 美人にしか許されねえ名前だ!」

「大人の香りがする! ナイスバディーだと俺は予言する!」


 美人教師。何ともそそられる単語な事か。彼らは絶望の中で見つけた光りに希望を抱いた。


「そうか、同級生がいなくてもまだ女教師が居た!」

「この際、ゼータクは言ってられねえ!」

「むほ! ギャルゲーにも確かに教師ルートは存在する! アリス先生万歳!」


 ガッツポーズで飛び跳ねた。まるで初めて全国大会出場が決まった弱小部のように。


「こうしちゃいられねぇ! よし、家庭科室へ乗り込むぞ!」

「あっ、ずりー! 俺も行く!」

「ボクもなんだな!」

「へいうぇーい! 抜け駆けはさせねーぜ!」


 そして、男たちは希望を抱いて教室の外へ飛び出していく。


「おい、お前も行こうぜ? 本なんて読んでねーでよ」

「……俺はいーよ……別に」

「なんだよ、つれねーな。えっと……名前は、佐塚……ふで?」

「筆斗(ひつと)……」

「なぁ、ヒットも行こうぜ! ほら、その萌え小説みたいに美人教師をみんなで拝みに行こうぜ!」

「いや、俺は別に、って、あ、おい!」


 一人、ライトノベルを静かに席で読んでいた者がいるも、冷めているやつは許さんとばかりに鋼が無理やり連れだす。

 

「よっしゃぁ! 家庭科室!」

「いま、会いに来ました!」

「たのもーーー、アリスせーんせいっ!」


 そして、まだ慣れない校舎を走って辿り着いた希望のエリア。

 男たちは心ひとつにして扉を開けると……



「ひょひょひょ……ごほんごほん。え~、なんじゃぁ? 急に儂の名前を呼んで。それと、下の名前で呼ぶんじゃないわい。天王寺先生じゃろ?」



 上げて落とされる。

 自分の母親よりも遥かに年上の老婆。

 生徒たちの顔面は、一瞬で廊下に落ちて叩きつけられた。



「「「「「ババアじゃん!!??」」」」」



 後から分かったが、この高校の女性教師は全員、還暦と定年退職の狭間の年齢しかいないのだった。






――後書き――

いつもお世話になっております。

引き続きこうやって過去の話を交えたりしますので、よろしくお願いします。


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