第11話 羨ま死
「やだ、何あれ? いかにも体育会ね」
「ダッサ。今時あんなことやるんだー」
推薦で入っている者もいるだけあってラグビーに自信はある。
今日はその自慢の実力を近所の共学の前で発揮して、注目されて、あわよくば女子と試合後にお近づきになれるチャンスを伺い、最悪の三年間を避けるはずだった。
しかし、気づけば鋼たち三人以外は丸坊主にされ、キョーガクの女生徒たちに大笑いされるという残念な結果になったのだった。
「いくら強くてもあれじゃね」
「だよねー。あー良かった。ウチのラグビー部はあんなにカッコよくて」
「あっ、見て! 出てきたよ!」
刈り取られた新入生の髪が涙と共にポリバケツに回収されていく中、相手チームも出てきた。
相手は鋼たちと違って、学年関係なく、レギュラー全員で出る。
ついこの間まで中学生だった鋼たちはいきなり高校生と試合するわけだ。
だが、少しは警戒していたが、それもすぐに失せた。
「一番でかいので180あるかないか。体重も80後半が二人ぐらいか?」
まず、鋼がラグビーの試合前で相手チームの何を見るか。
それは、身長や体重を含めて一番デカイ奴は誰なのかだ。勿論ラグビーは体格だけでやるわけではない。だが、恵まれた体格を持っている選手ほど脅威なものはない。今回のように対戦相手のデータが分からないときは、一番警戒するのは一番デカイ奴。
「人数は二十人。平均的な体重は我々より下だな」
荒木も分析する。一番体格が大きい選手を探す次に注目するのは、相手チームが全体的にどれぐらい大きくて重そうかだ。
「ふーん、まあ、どんだけうまくて、速いかは実際見ないと分かんねーけど」
ラグビーは個人競技ではない。むしろ、チームプレーの割合が非常に大きい。どんなに一人が凄い奴でも、他が弱ければ特に怖くは無い。
「なーんか、拍子抜けだぜ。高校ってのもあんなもんか?」
今回の相手は試合前に警戒することは無い。
あとは、どれだけのスピードと技術を持っているかなのだが、現時点では気にすることは何も無さそうだった。
「油断するな。油断は失点につながり、そして怪我につながる。人を嘲笑できるほど我々は優れていない」
「別にナメちゃいねーよ。だが、余裕を感じるのも事実だな」
少しだけ肩すかしな気分になった。
今の今までは……
「きゃあああ! 先輩格好いい!」
その声は突如湧き上がった。
「ねえねえ、あそこに居るの一年生でしょ? なんかカワイイよねー」
そこには、鋼たちが失ったものがあった。
向こうも新入生歓迎と勧誘を兼ねての試合。グラウンドの回りには部活のチラシを持った初々しい生徒たちがいっぱい居た。
「みんな、頑張るんだよ! ムサクルは強豪校。油断したら怪我するからね!」
黒髪で清楚な雰囲気を漂わせるジャージ姿のマネージャーらしき生徒。ボードとペンを持って、選手達を鼓舞する。
「ちゃんと水分補給してね」
隣には、ボーイッシュなショートカットのマネージャー。笑顔で選手達にタオルとボトルを渡している。
「……う、うらやましい……ウチのレギュラーとトレードでも惜しくねえ」
鋼たちは選手よりもマネージャーに注目した。
遠目から相手高校のやり取りを羨ましそうに見ていた。
「せんぱーい! がんばってー、きゃー、先輩こっち見た!」
「怪我しちゃダメだからねー」
「あの……私、クッキー作ってきたんです。後で食べてくださいね」
泥と汗にまみれたぶつかり合いのスポーツ。
その傍らで繰り広げられる異次元の光景に、檀詩を初めとする武蔵来栖高校ラグビー部の雰囲気が変わっていく。
「女子の比率が多いとは聞いていたがよ……」
「ああ。どうやらラグビー部は学園でアイドルのような存在なのかも知れねえ。ワールドカップの影響とかもあるんだろうし……」
「大してツラも良くない奴までちやほやされているじゃんかよ」
見れば見るほどムカムカしてきた。男たちの握った拳に力が入り、今にも爆発しそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます