第2章 思い出
第4話 再会
中学卒業以来会わなかった裕次郎と再会したのは一年半ほど前のことだった。その頃にはもう種を呑ませ、アリスの付き人になっていた。お互いもうすぐ二十歳になろうとしていた。
暗い雨の夕方、町には燃えるような明かりがあちこちに灯っていた。実家に来ていた親類を車で妃本立の駅まで送り、一人暮らしのアパートへ帰ろうとしたとき、フロントガラス越しの雨滴の中に、裕次郎の姿を見つけた。無人駅の小さな駅舎からふっと出てきて、黄ばんだ蛍光灯の下で立ち止まり、細い雨を見ている。
夢でも見ているのか、信じられない気持ちだった。
私は思わず裕次郎を呼び止めた。裕次郎も驚いて私を見た。
突き上げるような旧懐に襲われつい昔の情を思い出し、お互い時間もあったので、私たちはラパンに乗って市街地のカフェへ向かった。
裕次郎は用事があって
思わず声をかけてカフェへ行くことになったけれど、緊張もあって話はさほど弾まなかった。
「裕次郎は今何してるの? 進学したんだっけ?」
「まぁね……」
そんな話をしただけだ。裕次郎は助手席から雨の町を見ていた。春の冷たい雨だった。
市街で一番大きなショッピングモールの敷地内に併設されているカフェに入ると、不思議と緊張が解けて、中学校以来の睦まじい会話も進んだ。
「あんなところで会うなんてびっくりしたよ。四年振りかな」
「そんなもんだね。里奈は元気にしてたの?」
「うん、元気だったよ。今は
「俺も里奈と再会するなんて思わなかった。綺麗になったね」
裕次郎の唐突な言葉に私は笑った。
「何言ってるの、裕次郎」
「女の子は変わるって言うけど、ほんとだね」
「裕次郎だって素敵になったよ」
なめらかで清潔な肌と少し精悍になった目つき、長めのさらさらした黒髪が印象的だった。高校に入ってからも身体的な成長は続いたんだろう。肩も力強くなり、背も高くなった。もっと線の細いイメージがあったけれど、四年会わないだけでずいぶん変わるんだなと思った。
軽く食事を済ませて私たちは店を出た。夜の七時を回っていた。家まで送るよと言うと、裕次郎は妃本立の駅でいいと言った。アリスのためだったんだろうか。私は言われた通り妃本立の駅へ向かった。
混雑した旧国道を曲がって少し直進し、国道と交わる妃本立の交差点に来ると、長い赤信号に引っ掛かった。
「また、会える?」
呟くように訊ねた私の言葉を、裕次郎はどんな風に受け取ったんだろう。きっと、一番恐れていた言葉に違いない。でも、そのときの私には裕次郎の本心をはかりかねた。恐怖も不快感もその他の感情も一切顔に表さなかったから。中学生だった頃の一際内気で冷静な性格が思い返された。
「俺とはもう、会わない方がいいよ」
「どうして?」
「つらい目に遭うのが分かっているから」
そのときの私には分からなかった。裕次郎はもうすでにアリスに種を託し、二年も生きられない身だった。私のことを拒むのは当然だった。
そのまま駅に着き、再会の約束をしないまま別れることになった。
別れ際、裕次郎は私に言った。
「里奈、今日はありがとう。俺は今でも里奈が好きだよ」
私の耳はじりじりと焼き付いた。何か返事をしなければと焦ったけれど、裕次郎は私の返事を待たないまま微笑んで私の手を握り、「じゃあね。元気で」と言って、去っていった。
別れた後、私は何か目に見えない力に引っ張られでもするように、昔教えてもらった裕次郎の番号にメッセージを送った。きちんと送れるかどうかは分からなかった。三十分もしないうちに返事は来た。
『りな、ありがとう。会えて嬉しかった。』
そう書いてあった。
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