第14話 歌ってみよう




「―――ユニット?」

「そう。私とそあちゃんとめぐるちゃんでユニットを組むの!名前は、3人組Vtuberグループ『テンタイカンソク』!!」


あの晩、お姉ちゃんから持ち掛けられた「ユニット」の話。

後日わたしたち3人は、通話を開いてそのことについて改めて話し合っていた。



Vtuberの中には、アイドルのようにグループ・ユニットを組んで活動している人たちもいる。

一緒に曲を出したり、今回のようにコラボ企画をしたり、とにかく一緒になって活動していくのがユニットだ。

それぞれのファンの人たちにお互いのことを知ってもらえたり、「一緒に活動している」ぶん認知されやすくもなるだろうか。




「と、そうは言っても個人Vのグループなんて、そんな大層なものでもないんだけどね〜。」




大手の事務所に所属している人気Vtuberならいざ知らず、個人で活動しているVライバーのグループなんていうのはあって無いようなものでしかないようなものとしか思っていなかった。

何万人というフォロワーを持ち、配信してもコメントを追い切れないくらいのリスナーが来るVライバーの場合、どうしてもライバーとリスナーとの距離は疎遠になってしまう。

そういう人たちは、言うなれば「キャラクター」として確立されていて、視聴者から隔絶された存在となっているのだ。

例えるなら、アニメのキャラクターのように。

そうしたVtuberの場合、グループや事務所ハコ単位で活動することには「それぞれのメンバー間の関係」を強調、想起させるという点で大きな意味がある。



しかしわたしたちのような規模のVライバーの場合は、V同士の繋がりよりもリスナーさん達との交流の方がメインだ。

配信でリスナーさん達とお話しするのが楽しいし、なによりIMAIRはそういう「ファンとの交流」を主眼に置いた場所アプリなのだから。

だからVtuberグループといっても、そのグループ単位で積極的に動いている人はあまりいないし、正直ピンと来ない部分はある。




「『テンタイカンソク』。良い響き。そあちゃんは望遠鏡を持ってますし、お二人とも星をモチーフにしたデザインだし良いと思います。私は……持ってる本が星座の本ってことにしようかな?」


だが、姉妹を名乗ることには躊躇っていためぐるちゃんだったが、このグループ結成については一転してかなり乗り気みたいだ。


「めぐるちゃん、あのときはお姉ちゃんの妹になるの渋ってなかったっけ?」

「それはそれ、これはこれっていうか。そあちゃんとひかり先輩って見た目も要素も似てる所が多いから姉妹として違和感がなくって、そこに私が入る余地が無いなって感じるんですけど。でも一緒のグループとして名乗れるのは、やっぱり嬉しいですから!」


たしかにめぐるちゃんが「仲間になる」って感じは嬉しいし、わたしにだって反対する理由はない。


「ちなみに、グループを組むって言って、具体的には何をするの?」

「そうねぇ、まずはやっぱり【歌ってみた】をやりたいかな。さっきの、二人の【歌みた】を出すって話の流れからしたら、むしろ私が割り込む形になっちゃうけど。それでも、そあちゃん達と何かひとつカタチに残るものを作りたいなって思ってたのよ。」

「べつに、これが最後ってわけじゃないですし!私も先輩と一緒にやれたら嬉しいです。もちろん、そあちゃんさえよければ。」

「わたしだって、お姉ちゃんと一緒にやりたいよっ!」


お姉ちゃんにそんな風に思ってもらえていただなんて、素直に嬉しい。

始めたばかりの頃のわたしにとっては雲の上のような存在だった“星隼ひかり”と、今わたしは対等な存在としていられているということが。




「それでね、歌うとなったら何を歌うかなって考えてたんだけど……」

「わたしたちってなると、やっぱりアレ?「The Star Seeker」。」

「あはは、そあちゃんホントに好きなんだね。」


食い気味に提案したわたしの選曲を聞いて、お姉ちゃんはちょっと苦笑ぎみに言った。


「うーん、いま人気の曲だしそれもいいんだけど、つい最近、あの日の枠で二人で歌ったところでしょ。」

「それは……そうだけど。」

「やっぱり、普段歌わないような曲の方がいいんでしょうか?」

「せっかく出すんなら、やっぱり新鮮さがないとね。もっと「おおっ」てなる意外性というか、「なんだろう?」って思う目新しさが欲しいかな。こう、ヒキになるものがないとね。」


どうせやるならみんなが知っている曲の方が喜んでもらえるだろう。

今年話題になった映画の曲だし、タイムリーで受けがいいと思ったのだけど。


「たしかに、話題になってる曲なら私たちを知らない人でも曲名を見て来てくれるって可能性があるし、初見さんを呼び込むという観点から考えるとアリなんだけどね。でも【歌】ってね、いつも見てくれてる人たちに向けて歌うものだと思うの。「いつもありがとう」とか、「これからも一緒にいてね」っていう気持ちを伝える手段なのかなって。だったら、私たちをよく知ってくれている人たちに、私たちのちょっと違った一面を見せるっていう方が喜んでもらえるんじゃないかな。」

「それに、みんなが歌ってる歌だと有名な人たちに紛れちゃって、検索かけても私たちのものが出てこないなんてことになりかねない気もしますね。」

「そっかぁ……」


言われてみれば納得するしかない。

【歌ってみた】動画ともなれば、ただ歌うだけじゃなくmixもしてイラストも用意して、さらにそれを動画に仕上げなければならないのだ。

もちろんそれらの作業を自力でできるわけがないので誰かに依頼することになるし、その分費用もかかる。

一朝一夕で完成できる企画ではないし、ちゃんと考えて動かないといけないのは当然のことだ。

ただ気楽に「一緒に【歌ってみた】やりたい!」と思っていただけのわたしとは違い、二人ともしっかり考えた上で選ぼうとしていたみたいだ。




「あー……。なんか、お姉ちゃんもめぐるちゃんもすごく頼りになるなぁ。わたし、何も考えずに何を歌いたいかってことだけしか頭になかった。」

「ふふ、そんな気もしてた。でもそういうの好きだよ。まずは始めてみて、それから考えるっていうのも一つの方法だもの。実際にやってみないと分からないことってたくさんあるし、始めたからにはそう易々とは立ち止まれないよねってなって、結果的にどんどん前に進んでいくタイプだよね。」


実際、思い返してみればわたしは最初からそうだった。

お姉ちゃんに憧れてVライバーになることを決意して、ノボ兄にも手伝ってもらってなんとか準備して。

配信を始めてからも、いざ自分でやってみると上手くいかないことばかりで、いつもあたふたする自分にへこんだりもしていた。


「そういうパワーが、そあちゃんの凄いところですから。私はどうしても考え過ぎて二の足を踏みがちで、そあちゃんのそんな眩しいところに惹かれて友達になりたかったんです。」

「わかる。私も“お姉ちゃん”なんて慕ってもらえて、こんなに嬉しいことはないもの!」

「もー。二人とも、隙あらばわたしのことで盛り上がってない!?」


この前に引き続き、二人が唐突にわたしを褒め始めて、自分の顔が熱くなっていくのが分かった。

なんでこうも、この二人はわたしのことで意気投合するのだろう。


「それは……もしかして私たち、似た者同士なのかもしれませんね。」

「そうかも。私自身このユニットを考えたのも、そあちゃんと親しい者同士で、っていう意図がなんとなくあったのかもしれない。そあちゃんが太陽で、私たちがその周りを回る惑星みたいな。」

「あるいは、星と人工衛星かもしれません。その星のことをもっと知りたいって、観測してる、みたいな!」


この三人で活動している間、わたしはずっとこういう感じで褒め殺しされ続けなければならないのだろうか?

嬉しくないわけではないが、身の丈に合わない評価をされている気がしてどうにも落ち着かないものがある。




「コホン。それで!結局なんの曲を歌うのっ!」


脱線した話題を強引に引き戻す。


「ああ、そうそう。それでね、二人が知ってるかは分からないんだけど、こんな曲はどうかなって。チャットでURL送るね。」


通話中のチャットの画面に、動画のリンクが上がった。


「ううん、この曲わたしは知らないかなぁ。」

「私もです。聴いてみないと分からないですけど……」

「まあそうだよねぇ。歌われたアニメも有名な作品ってわけでもないし。でも、良い曲だし私たちに合ってると思うの。」


まずは聴いてみてからということで、わたしたちはその動画を開いてみる。

十年くらい前のアニメの挿入歌らしく、絵柄も今流行りのものと比べると少し懐かしさを覚える見た目だ。



やがて曲が始まり、静かなイントロが徐々に軽快なリズムを刻んでいく。

そして歌い出しの部分がやってきて、画面には曲のタイトルがでかでかと表示された。



GRAVITYグラビティ」―――


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