第4話 姉妹コラボ、奮闘中!



【クイズのお題を選んでください。】


読み上げ音声とともに、アプリの画面にメニューが表示される。

このクイズアプリ、お題テーマごとに色々なクイズが入っていて、一般常識レベルから時事ネタからマニアックなものまで、様々なクイズがある。

お題ごとにランダムで出される20問を解いていくだけの単純なアプリだが、その設問の総数がハンパないと評判らしい。

これをお姉ちゃんと二人でそれぞれ解いていく、というのが今回の企画だ。


「じゃあまずそあちゃんからでいい?」

「え、あたしから?!お姉ちゃんからの方が……」

「ダメダメ、みんなに知ってもらいたいなら、こういうところでバシッと前に出ていかなきゃ。さ、お題を選んで。」

「う、うん……えっと、お題かぁー。何がいいかな?」


「食べ物」「日本史」「世界史」「お笑い」「音楽」「アニメ」等々。

そのジャンルも多種多様、単なるアプリと思えないようなレパートリーが揃う。

【アニメがいい!】【歴史好きだから見てみたい】【芸術とか良くない?】など、リスナーさん達の意見もバラけているようだ。


「んー、みんなの意見が多いのは“アニメ”かな。そあちゃん、いける?」

「えっと……ん、がんばる!」

「よーし、じゃあやっていこうか!」


お姉ちゃんの声とともに、アプリの音声が流れ、ゲームが始まった。


≪3、2、1、スタート!デデン!問題、―――≫






≪―――結果発表~!得点は~……30点!……ショボーン……≫

「ああー……!ごめんお姉ちゃ~ん……!」

「あらら……残念残念。」


結果は見事、惨敗だった。

やはりVtuberという存在との親和性か、みんなある程度アニメについての知識はあるらしい。

見た目から言えば、Vtuberはアニメのキャラクターが現実に現れたような存在。

だから、アニメ好きな人が集まるのも不思議なことじゃない。



しかしVtuber自身がそれに詳しいかどうかは、また別の話。


【まあこれは仕方ない】

「そうそう、そあちゃんも知らないなりに頑張ったって!」

「うう……それにしてもあたし知らなさすぎだよね……」


普段あまりこれといったテレビ番組を観ないあたしは、昨今のアニメ事情には全く明るくなかった。

こういうクイズでは往年の有名アニメからの出題も多く、リスナーさん達には懐かしがるコメントもたくさん飛んできて、コメント欄は賑やかに盛り上がっている。

あたしも、有名アニメ映画の問題とかだったら何とかついていけなくもないのだけれど……



そんな感じで、あたしの結果は散々だった。

常日頃から痛感させられている、リスナーさんやお姉ちゃんたち先輩方との知識の差、それを改めて身に染みている。


【書架屋めぐる:大丈夫!私もそのテスト30点でしたから!】

「って、めぐるちゃん!?いつの間に……」


いつの間にか、知り合いのVライバー仲間まで遊びに来てくれていた。

色々物知りな子なのだけれど、そんなめぐるちゃんですら30点って、相当マニアックな問題ばかり出たのだろうか。


【実はアニメ関係詳しくないんですよね】

「へえ意外。映画とか色々詳しいのに。」

【昔はあまりそういうのに触れてこなかったので。映画にしろドラマにしろアニメにしろ、最近になっていろいろ観るようになったばかりなんです】


あのめぐるちゃんでも、詳しくないものがあったなんて。

それを聞いてあたしはそんなことを思ってしまっていた。

別に何でもかんでも知っているわけではないのだろうけど、なんとなく彼女には「知らないものは無い」みたいなイメージを勝手に持っていたから、どうしても意外に思えてしまうのだ。


「得意不得意や好みは人それぞれだからね。そあちゃんだって得意分野とか、あるでしょ?」

「う……得意分野なんて言われても。」

「あたしのお題はどれがいいかな?せっかくならそあちゃん選んでみて。」

「えー、なんか逆にプレッシャーが……。“おまかせ”でいいんじゃない?」

「そう?なら、なんだってどーんと来なさい!お姉さんがビシッと100点満点を決めてあげるから!」




そうして、次に選ばれたお姉ちゃんのお題は「文化・伝統」。


「ふぅー。難しいね、これ。」

「えっ……!?」


一通りクイズに答え終えたお姉ちゃんの言葉に、あたしはつい変な声が出てしまった。


≪―――結果発表~!得点は~……95点!テッテテー!!≫


ご覧の通り、お姉ちゃんの得点は100点中95点。

クリア目標の70点を楽々と突破していた。


「95点って、1問間違っただけじゃん……」

「たまたまよ、たまたま。勘で答えた問題もあったし、正直危なかったわ。」


ふぅ~、とため息をついて見せるところまで、なんだかカッコいいというか様になっている気がする。

これが格の違いか……!


「お姉ちゃんは実際物知りだし、30点なあたしとは根本的に違うっていうか。最後の問題の、“コトダマ”?だっけ?あんな言葉あたし知らないもん。」

「“言霊”ね。言葉や名前には、命が宿るっていう考え方。嘘のつもりで口にした言葉が本当のことになったり、名前を付けて大事にしてる物が長持ちしたり。……まあ、名前の付けられた物がホントに命を持って動き出したりっていう伝説や御伽噺もあるけど。物の怪もののけとか付喪神つくもがみとか。」


そういえば、なにかの映画とかでそんな言葉を聞いたことがある気がする。

お姉ちゃんの知識はさすがのもので、決して聞きかじりとかではなく、物事のかなり深いところまで知っているみたいだ。


「う~、やっぱりお姉ちゃんはすごいよ!あたしとは知識も経験も段違いだし。まだまだ遠い存在だなぁ……」

「そうかなぁ?私だって何でも知ってるわけじゃないし、そあちゃんの方が詳しいことだってあると思うけどな。」


そうは言われても、このお姉ちゃんを相手に敵いそうなことなんて、てんで思いつかない。

何の取り柄もなく、部活や趣味もやってないから勝てるような分野なんてありそうにない。

答えに窮して、あたしはつい黙り込んでしまった。




「う~ん……。あ、そうだ!名前といえば、前から聞きたかったんだけど、そあちゃんの“名前”って誰が決めたの?」

「え?あ、あたし、だけど……」


この“姿”をもらった日、お姉ちゃんの配信を聴いていたあの日、送られてきたモデルの姿と星空を見ていたら、自然と思いついたのがこの名前だった。


「やっぱりそうだよね!なんでその名前にしたのかなって、ずっと聞きたかったの。だって、素敵な名前だもん。」

「え、そうかな……?」

「うんうん!かわいい名前だし、かといって特徴的だから名前被りもしなさそうだし。私なんて正直、同じ“ひかり”って名前のライバーさんは一人や二人ではきかないもの。」


眉をハの字に曲げて苦笑するお姉ちゃん。

たしかに、お姉ちゃんの名前で検索しようとすると、別のVライバーさんが何人も候補に出てきてしまう。

対して宙路そああたしの名前で検索しても、Vライバーとかアイドルとかの名前が出てくることはほとんどない。

それよりも、宇宙関係のサイトのHPホームページとかがズラリと並んでいたような。


「名前の由来かぁ。宇宙っぽい名前にしたかったのと……、あと、お兄ちゃんがいるんだけど、そのお兄ちゃんが「SOARソア」っていう宇宙関連の学生プロジェクトに大学生の時に参加してて。それを覚えてたからかも。」


名前を決めたそのときには、こんなこと思ってもいなかったのだけれど。

無意識のうちに、ノボ兄のこととか宇宙関係のことを、自分の名前の中に入れ込んでいたのかもしれないなぁ。



そんな風にあたしが当時を思い返している間に、コメント欄の方が意外なほど賑やかになっていた。


【そあちゃんお兄ちゃんいたの!?】

【妹ちゃんの名前にそんな秘密が……】

【宇宙関連のプロジェクトって、すごくない!?!!?】


コメント欄のコメントが、さっきまでの数倍くらいのスピードで流れていた。


「えっえっ、ちょっとみんな、急にどうしたの?!」

「そりゃそうだよ。だって、そあちゃんの名前の秘密大公開だもん。しかもお兄さんがいて、しかもなんだかすごそうな人じゃない?そりゃ騒然とするって。」


予想以上の反応に戸惑ってしまう。

そもそもVライバーが“中の人”の家族の話をするのって、本来はあまりよろしくないことで。

あくまで2次元のキャラクターを演じているようなものなんだから、“中の人”が透けて見えることって歓迎されないことなんじゃないだろうか?


「そんなことないよー。それに、いつも配信で学校のでのこととか話してたりしてるし、今さらな気もするけど?」


つい口から漏れていたのか、あたしが呟いたことにお姉ちゃんが笑って答えた。


「Vライバーさんにもよるんだろうけど、基本的に私たちVライバーの姿って、「動いたりできるちょっと豪華なアバター」ってくらいの認識の人がほとんどだと思うんだよね。もちろん最大手の事務所の人とかは違うかもしれないけど。大体の人は“中の人”の色がすっごく出てて、それが個性に繋がってる。だから今はこんなに、1万人以上のVライバーがいて、しかもそれぞれの人にファンがいるんだよ。」




根本から、あたしの認識は違っていたのかもしれない。

あたしは、“宙路そあ”という人格を演じていると思っていた。

そしてその間だけは、は“宙路そあ”という別人になっているのだと思ってた。

だけど、それは違ったんだ。

お姉ちゃんは、“中の人”が“星隼ひかりお姉ちゃんを演じているのではなかった。

この姿も“中の人”も、全部ひっくるめて“お姉ちゃん”なんだ。

そしてあたしは正真正銘、この人の妹の“宙路そあ”なんだ!




「ただ、2次元のキャラを演じてるってだけじゃ、なかったんだね。」


視界が、一気に開けた気がした。

あたしという存在が、日常が、人生が。

底の底からひっくり返ったような気がした。

わたしあたしは、「宙路そあ」なんだ……!




「2次元なんてものじゃないよ。Vのことを現実と平面の狭間はざま、2.5次元なんて言う人もいるけど、私は違うと思うの。Vライバーって、そもそも3次元で生きてるわけでしょ?それがこうやって、画面の中の2次元の世界でも生きている。2+3で、5次元だよ!私たちは、現実リアルなんかよりはるかに高い、5次元の世界に生きてるんだよ!」


バンッと、机をたたく音が聞こえんばかりの勢いで、お姉ちゃんの姿がアップになった。


「私たちは、バーチャルは実在するんだよ。生きている存在なんだよ。そしてみんなと繋がって、どんどん世界を広げていく存在なんだよ!私たちは世界を変える。そう!仮想バーチャルは、現実リアルを超える!」


お姉ちゃんの力説に、ひと呼吸おいてリスナーさん達が【うおおおおおお!!】っと応える。


【そうだ!!そのとおりだ!!!】

【えらい大きく出たな、それでこそひかり様だぜ!】

【どうりで、3次元の俺らじゃ手が届かないわけだな!?】

【さすひか!】

【ひかりちゃんサイコー!!!!!!!!】


突然始まったお姉ちゃんの演説(?)に、配信の空気テンションは一気にMAXにまで盛り上がった。

これが、星隼ひかり……!

あたしの目標、偉大な先輩であり、誰よりも尊敬する“お姉ちゃん”だ!




「あはは……なんかすごい空気になっちゃったけど、続きしよっか?」


お姉ちゃんがそう言って、すっかり忘れていたクイズアプリの画面を動かす。


「ええっ、このテンションの中で……?!」

「大丈夫、大丈夫。それにそあちゃん、さっきの話を聞くに、宇宙関係のことに詳しそうじゃん?」


うっ……。

さすがはお姉ちゃん、鋭く妹のことを察してくる!


「私も“星隼”なんて名乗ってるわけだし、せっかくだから、どっちが高得点取れるか勝負!じゃない?ここは。」

「う~……わかったっ!もう、こうなったら絶対に勝ってやるんだからっ!!」


あたしは、もはや半分ヤケになってそう啖呵を切った。

そんなあたしたちを見て、リスナーさん達のボルテージはさらに加熱していく。



そうして、あたしとお姉ちゃんとの初のコラボ配信は、大熱狂に飲まれながらも続いていくのだった。


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