第3話 星の子姉妹
「みんな、お待たせ!」
元気よく勢いの良い声が響く。
星をあしらったアイドル風の衣装に、翼を
画面に映るのは、今を時めくVライバー、星隼ひかり。
「はい、みんなありがと~。いつも来てくれるみんなはおかえりなさい。そして、初めて来てくれた人、はじめまして。夜空を駆ける流れ星。天体系Vtuberの星隼ひかりだよ。よろしくねっ。」
お決まりのセリフを決めて、お姉ちゃんの配信が始まる。
「はいそこー!【変態系?】って言った子は、ぶっ飛ばしてお空の星にしちゃうからね?」
リスナーさん達の煽りを受けて、軽く受け流すお姉ちゃん。
これもまた、お姉ちゃんの配信ではお決まりの流れ。
一種の伝統芸みたいなもので、お姉ちゃんもリスナーさん達も慣れきっている。
何にせよ、もう一年近くこの挨拶を続けてるんだから、その口上も堂に入ったものだ。
これが先輩ライバーの貫禄かと思うと、やはり尊敬する。
「さてと。みんな知っての通り、今日はコラボだよ!お相手は~……私の大切な妹!宙路そあちゃんでーす!」
あたしの紹介が始まって、いよいよかと思うと緊張してきた。
お姉ちゃんに改めて「妹」だと紹介してもらえるのは嬉しい反面、ちゃんとお姉ちゃんの横に並び立てる存在であれるのか心配にもなる。
ここのリスナーさん達にもあたしという存在が認められるのか、星隼ひかりの“妹”として認められるのか。
そんな不安が、今もあたしの中に渦巻いていた。
「そあちゃんはねー、かわいいんだよ。見た目もそうだし、声も良いし。それに何より、私のことを「お姉ちゃん~」って呼んでくれるの!ホントに!打ち合わせの時とかもさー、もう可愛くて可愛くて!知ってる人は知ってると思うけど、みんな期待しといてよ?」
お姉ちゃんの煽りにコメント欄のリスナーさん達が沸き立つ。
「てぇてぇ」とかいうコメントも飛び交い、リスナーさん達のテンションが上がっているのが分かる。
さすがはお姉ちゃんというべきか、場を暖めるのが本当に上手い。
ここまでハードルを上げられたら、緊張のし過ぎであたしはもう、どうしていいのやら分からなくなってしまっていた。
「じゃ、そあちゃん。入れる?」
ちょっ!?いきなり!!?
お姉ちゃんにそう言われて、配信画面を開く。
【プライベート配信を開始しますか?】
最近追加された、特定の相手にだけ配信画面を送れるIMAIRのプライベート配信機能。
主に今回のようなコラボ配信を想定した新機能だ。
これを使って、お姉ちゃんにだけ配信データを送り、それを画面キャプチャーして、お姉ちゃんの配信画面に映す。
言ってみれば、このコラボを開始する最終確認の画面だ。
ヤバい、本気で緊張してきた。
喉が渇いて、手は今にも震えそうになっている。
「ううう……よ、よし!」
一呼吸置いて、意を決して【はい】のボタンを押した。
「……あっ、入れた?」
配信画面の右側、お姉ちゃんの隣に、
「いらっしゃい、そあちゃん。待ってたよ!」
「お、お邪魔します……」
緊張で声がガチガチに固まっている気がする。
「そあちゃん緊張してる?なんか、初配信かってくらいにガッチガチなんだけど。」
「そりゃ緊張もするよ……いつもと違う環境だし、何よりお姉ちゃんとのコラボなんだもん。」
お姉ちゃんにも、そう茶化すように言われてしまった。
なにせ自分の画面ではラグのために実際の自分の動きより遅れて見えるから、上手くいっているのか不安になってしまって、余計に余裕がないのだ。
「そっか、そあちゃんはこれが
「うん。一応自分のチャンネルは作ってあるんだけど、配信はもちろん投稿もしてないんだよね。」
YourTubeといえば、動画投稿サイトとしては一番の最大手。
利用者も投稿者もダントツで多く、言ってみれば配信者たちの“主戦場”とも言えるかもしれない。
「これで一応、あたしも大手を振って“Vtuber”って名乗れるのかな。」
そもそも「Vtuber」という言葉自体、このYourTubeで配信する人たち“YourTuber”の中でも、“
今やあたしのようにYourTubeで配信していないVライバーも「Vtuber」と一括りにして呼ぶ言葉になっているけど、それでもまだこの場所の持つ意味は大きい。
IMAIRや他の配信アプリと違って、誰もが知っているサービスだから利用者の数も段違い。
それだけ見てもらえる可能性も増えるし、IMAIRを知らない人・入れていない人にも知ってもらい、IMAIRに来てもらうチャンスでもある。
まあ、それだけの魅力ある、話題性のある内容にできれば、の話ではあるが……
「さてさて。それじゃ、めでたくYourTubeデビューを飾ったということで、まずは自己紹介、してもらいましょうか?」
当然、そうなるよね。
お姉ちゃんに水を向けられ、あたしはいつもの自己紹介をする。
「しっ、しあわっ……。……噛んじゃった……」
緊張のし過ぎで、初っ端から噛んでしまった。
お姉ちゃんも思わず笑っているのが聞こえる。
ええい、怯むなあたし!
「しあわせ届ける星の子Vライバー、宙路そあです!みんな、よろしくねー!きらり~ん☆」
決めゼリフとともに、ウィンクも決める。
うん、今度は我ながらバッチリ決まった!
コメントでも、【かわいい!】【たしかに可愛いや】といった声が聞こえる。
とはいえ、先ほどのお姉ちゃんの自己紹介と比べると……。
出だしはどもるし一回噛んじゃうし、「きらり~ん☆」は実はまだ恥ずかしいしで、改めてまだまだ遠い格の違いを感じてしまう。
「う~……噛んじゃったよお姉ちゃん~!」
「あっはは、かわいいなーもう。」
お姉ちゃんにも笑われて、あたしはバツの悪い顔しかできなかった。
「でも、それも才能じゃない?配信も自己紹介も、喜ぶのも悩むのも楽しむのも、何をするのも全力で一生懸命だから、みんなもっと見ていたいって思うんだよ、きっと。」
「いやぁ、やっぱりお姉ちゃんみたいに場慣れしてた方が良いに決まってるよ。お話を途切れさせずに楽しませるトーク力とか、話題に困らない色んな知識とか、あたしはまだまだ新人も新人、ド素人だから。」
「そりゃあ新人なのは間違いないけど。それでもそあちゃんがかわいいのは事実だもん。そあちゃんのリスナーさん達もいつも言ってくれてるように、真面目で一生懸命なのがそあちゃんの良いところなの。そこは素直に受け止めて喜ばないと。」
「うん……」
自信が無かったとしても、向けられた好意を否定するのは筋違い。
このあいだの打ち合わせで、お姉ちゃんから言われたことだ。
自分に自信が持てないからと、必要以上に自分を卑下するのはあたしの悪い癖なんだろう。
劣等感を抱きながら、それでも堂々としているというのは、想像以上に大変なことだ。
そしてそれは、お姉ちゃんだって同じなんだと……
「さて!今日は初のコラボってことで、企画も用意してきたよ。サブ端末に、クイズアプリを入れてきたの。これを二人で交互に解いていこうかなって。」
仕切り直して、お姉ちゃんが企画を先に進める。
「あたしたち二人の会話に終始してしまってリスナーさん達が置いてけぼりにならないように、みんなで一緒に楽しめるものを」。
打ち合わせで、お姉ちゃんがそう言って提案してきてくれたものだ。
配信画面の中央、あたしたちの姿の左側に、お姉ちゃんのサブ端末の画面をキャプチャーした映像が表示され、「挑戦!クイズバトル」とタイトルが読み上げられる。
ひねりも何もないタイトルだが、なかなか良くできたクイズアプリなのは二人でテストしてみたから知っている。
リスナーさん達のコメントでも、「それ知ってる!」というコメントがぼちぼち見られた。
「さあ、さっそくやってみよう!」
お姉ちゃんとのコラボ企画、いよいよスタートだ。
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