100
「それで、貴方はなんでここに居るんですか?」
絶断を解除して、着物のおっさんに問いかける。見るからに不思議な人だ。着物と草履もそうだが、俺が使った魔法をそのまま打ち返して来るとか。しかも、魔力操作の熟練度が俺と全く同じ。まるで、俺の使った魔法を完全に模倣してしまったかのような。
「お主に会いに来ただけだ。他に意はない」
「そうですか」
どうやら真面な回答が聞けそうもないな。
「じゃあ、魔法の事は若勝に聞いたんですか?」
「魔法。初耳だのう」
「さっき使ってたじゃないですか」
「ほう、先のは魔法か。まさか、この世界でも見られるとは思わなんだぞ」
「は?」
「全く、努力を無視して他人の真似事に興じれる。そんな他愛もない儂の異能よ」
どこら辺が他愛もないのか全く理解に苦しむが、それはSS級トラベラーの能力すら我が物とする能力と言う意味だろうか。だとしたら、人類最強の異能力者は間違いなく目の前のこの人だ。いや、炎息吹を模倣していた事から、その能力が嘘であるとは考えにくい。問題は、どの程度までの能力なら模倣できるのかという部分。もしも無制限であるならば、正真正銘最強無敵の能力になり得る力。
まさか、手記には書かれていなかったが、SS級トラベラーにはそんな能力を持っている奴もいるんだろうか。だとしたら今の魔力量でもきついかもしれない。
「じゃが、流石にあの小娘に英雄と呼ばれるだけはある。儂の異能では、お主の術を真似ても、その法則から脱出は出来ん。あの炎の魔法ですらたった二度。他の魔法に至っては力量が伴っておらんかった」
魔力量の事を言っているのか……?
確かに龍眼で確認してみれば、この男の魔力量はそこまで多くない。確かに地球に居る人類よりは大分多いが、それでも生後一週間と、一年位しか差が無い。
一年? 若勝が居なくなった時期と一致するし、若勝の魔力量も大体その程度だった。ただ、炎息吹二発分って事は無い。もう少し多いと思うが……。いや魔力操作の技術ではなく、同じレベルの炎息吹を出すのに多めに魔力を使って発動させていたのか。そう仮定して、若勝の魔力操作技術と照らし合わせてみれば計算は凡そ一致する。魔力操作に関してはこっちの男の方が多少才能があるようだが。誤差を呼べるレベルだ。
つまり、このおっさんは若勝と同じ神に選ばれた五人の内の一人って事か。
「決めたぞ小僧。儂も百階層の魔物討伐に協力しよう」
「要らないですよ。でも、もし見たいなら、見ててもいい」
「ほぉ……?」
ーー
それは一体の人型の生物だった。
短剣を携え、短い杖を一本持っている。
「キシィィィ!!」
蟻のような顔と、吸血鬼が持つような羽が特徴的な生き物。
それは、俺がクイーンという名前を付けて配下にした蟻型のモンスターと似たような鳴き声を放つ。
この声嫌いなんだよ。
「うるっさいな」
『第100階層ボスモンスター混合種:キメラドラグーンが出現しました』
「気を付けた方が良いぞ。奴の事は今でもよく覚えている。なんせ、儂と似た能力を使い熟す魔物じゃからな」
それってまさか、能力のコピーって意味か?
「キシャアァァァァ!!」
それは雷のブレスだった。
口から放出された電流は、まるでレイとギンの能力と似通っていた。
「けど、
回避は余裕だ。
「キシィィィィ!」
次は手を翳し、炎を放ってくる。
「
一瞬にして後ろを取り、そのまま短剣を振りぬく。
キィィン!
「これに反応するのか……」
だったら、加速。
加速込みの二刀流から放たれる連撃に対処しきれるか?
何度も金属音が響くが、次第にモンスターの足が後ろへ一歩づつ下がっていく。
身体は蠍モンスターみたいな高質な殻で覆われているが、龍殺しの前では無力。
「キッシャアアアア!!」
「うるせ……」
加速しただと?
こいつも俺と同じように加速が使えるのか。
ほぼ同等までスピードを上げた事によって、俺と打ち合えるだけのスピードを手に入れている。
「ギギギギ!!」
更にその皮膚に雷が宿る。
これは、ギンが使っていた高圧電流によるカウンターか。
やばい!
咄嗟に攻撃を止めて後ずさる。
「ッシィィ!!」
下がった俺を追う様に地面が凍り付く。
更に短剣から白い冷気が発せられている事に気が付いた。
雪女の時と同じだ。
あれで斬られたらまずい事になる。
「ッチ、
これで、最初の位置まで転移する。
雷に炎に加速に氷。
「「「シャシャシャ」」」
その身体が三つに別れる。
更に、身体が二回り以上巨大化した。
分裂に巨大化まで使えるのか……
今までのボスモンスターの能力を全て兼ね備えているって事だよな。
けどさ、
「それって要するに、俺の劣化能力って事だよな」
お前と俺は相性最高だよ。
「出てこい」
俺の前に12体の魔物が出現する。
魔力レベルもガンガン上がるからゴブリンキングを四匹増やしたから、合計12匹だ。
じゃあ、お前が本当にこいつらよりも強いかどうか試してみようか?
この階層は他の階層と違って雑魚が湧かない。
100階層ってエリアの特性みたいなものなんだろうけど、魔力回収ができない分俺一人だと相性の悪い階層って事になる。
「行け」
まあ、数的有利を貰えるなら使わない手はないよな。
配下の魔物は死なない。厳密には、俺が生きている内は俺の魔力で一定時間で死体から元に戻る。元々、生きてる訳じゃないから。だが、死ねば亜空倉庫の中で活動再起時間に入って数時間は出てこなくなる。だから減らす事自体は可能だけど、13対1のお前が数を減らす事が出来たらの話だ。
「ガウゥゥゥ!」
キングと、それと同じモンスターである、ポーン、ルーク、ビショップ、ナイト、が飛び掛かって接近戦闘を挑む。
こいつらの持つ身体強化と接近戦闘のスキルは、近距離での戦闘に特化した能力だ。
確かに身体能力はあいつの方が高いかもしれないが、それでも手数には対応できる上限がある。
「グルァァァァ!!」
エンペラーの威圧が発動する。
それによって強制的に視線を移動させられたボスは、エンペラーの巨大化した姿に目を奪われる。
お前の巨大化は精々二回りだが、数々のモンスターの魔力を捕食して強くなったこいつのスキルはその程度じゃない。
その大きさは、軽く5mを越える。
「キキキ」
「カカカ」
更に後方からはリッチとリヒトによる火炎弾の後方支援が舞う。
魔力の捕食と幾度の戦いの経験から来る連携能力、今のこいつらの力は出会った頃とは比較にならない。
「キッシャアアア!!」
堪らずと言った風に、ボスモンスターはリッチとリヒトに向けて杖を翳し、さっきよりも巨大な炎を飛ばす。
「カカカ」
ただ、リヒトにそれは無駄だ。
守護陣というリヒトのスキルは、俺でも破れない無敵の
「シシシシシ!」
クイーンは分裂を繰り返し、着々と戦力を増やし、出来上がった個体から順番にキングたちの加勢に加わる。
こいつ全員やられない限り、最大同時分裂量に達するまで無限に増殖し続けられる。
一回試したけど、最大数は100と少しだ。
一体一体の戦闘能力はキングよりも低いが、それでもその数は驚異的と言える。
「ウーウウウ」
スノーダンサー。
雪女のモンスターは滑るような短剣術と、武器に氷属性を宿して切り付けた部分を凍り付かせる能力を秘めている。
更に、アイスリングのスキルはあいつがやったように地形を凍らせ、相手の機動力を奪う。
ちなみに、近距離で息を吹きかけられると相当寒い。
「グルルルル……」
レイはドラゴンの形状はそのままに、サイズは少し小さくなった。
しかし、その分機動力が上がっていて、空中での高速戦闘ではペガシスの魔法以上に頼りになる。
まあ、今回は出番はないかもしれないが。
「ガラァアアアアア」
なんて事は無い。
雷鳴の咆哮は天から雷を呼び寄せ、恐怖の咆哮は相手の意思を飛ばす程の恐怖を植え付ける。
この階層のボスモンスターだけあって、気絶まではいかなかったが、それでも速度に大きなデバフが入っている。
キィィィィィィン!!
ギンは俺より速く動けて、身体もデカい上に、雷を纏ってるせいで近接戦闘の相手にとっては悪夢みたいなモンスターだ。
その上、遠距離系には圧倒的速度で一瞬で詰め寄るから、結局どんな系統の相手にも圧倒的なスピードのせいで相性がいい。
雷無効とか持ってないとまず勝てないだろう。
このまま戦っていれば、何れこっちが勝つだろうけど。
「悪いけど、時間を掛ける相手でも無いよな」
隠密。
配下に気を取られている間に、後ろを回り込んで首を掻き斬る。
終わりだ。
「戻れ」
亜空倉庫に配下を戻している内にまたあの声が聞こえる。
『第100階層を突破しました。以下より報酬を選択してください』
・必要な装備
・良質な消耗品
・魔力レベルアップ
『第100階層を突破した事によって、スキルがレベルアップします』
『《捕食》に《共食》が追加されます』
『共食:配下のスキルを一つだけ使用することが出来、配下に自分のスキルを一つだけ使わせる事が出来る。ただし共食で得ているスキル同士は同時に一つまでしか使用できない』
『共食の効果が発動します』
『共食スキル《近接戦闘》を獲得しました』
『共食スキル《威圧》を獲得しました』
『共食スキル《超速再生》を獲得しました』
『共食スキル《鋭敏感覚》を獲得しました』
『共食スキル《短剣術》を獲得しました』
『共食スキル《守護陣》を獲得しました』
『共食スキル《雷鳴の咆哮》を獲得しました』
『共食スキル《雷纏》を獲得しました』
『配下のモンスターがスキル《捕食》を獲得しました。これにより魔力の還元率が合計200%まで向上します』
なんか色々獲得したんだけど。
取り敢えず魔力レベルアップ選んで、後はボスの死体から魔石による魔力レベルアップと魔力吸収を済ませてっと。
『魔力レベルが上がりました』
『魔力レベルが上がりました』
これで、18レベルか。
それと、
「起きろ」
『名前を付けてください』
「お前はキメラだ」
配下を増やす。
『キメラから共食スキル《双剣術》を獲得しました』
『キメラが共食スキル《捕食》を獲得しました』
また増えたし。
つまり、俺のスキルと配下のスキルを共有するのが共食の効果って事か。異能力の
「まさか、ここまで圧倒するとは……。恐れ入った、儂もお主には賭けてみたくなったぞ」
「またか、賭けるとか何の話ですか?」
「まだ知らなくて良い。しかし、何れお主は自分かあの小娘か選ぶ時が来る。もしも儂から出来る忠告があるとするなら、それ以外の事を考える事無く選ぶ事を薦めるとでも言っておくとしようか」
「どういう……」
「それではな」
どういう意味だ? 俺の言葉を待つことなく、おっさんはそう言って消えてしまった。
その瞬間、脳がピリつく感覚を覚えた。
これは魔法に仕込んでいた自動発動型の供物追跡の魔法か。
十華の状態が変ったら自動で発動するように、仕掛けていた魔法だ。
自動発動は、無詠唱よりも高度な魔法発動方法だが、賢者の記憶を持つ俺には難易度の高い技術じゃない。
自動発動された供物追跡によれば十華の状態が、健康から軽傷へ変化していた。
101階層へ行くための扉から、ダンジョンからの脱出を選択する。
もうここでの目的は果たした。
ーー
ダンジョンから出てきた俺は十華の位置情報を頼りに第一八術式、
「お前等、人の妹に何してくれてんだよ? 傷一つでも付けたら許さねえって、言ったよな?」
「何故、いやどこから……違う、どうやってここに来た……!?」
「誰? あんた……」
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