変幻無限の王


『第99階層への転移が許可されます』


 70階層のドラゴンを倒し、90階層にいたボスモンスター、白鋼の雷鼬を倒しきった俺はついにその階層まで到達した。


 白鋼の雷鼬ライユウは、その名前の通り雷を操るイタチの獣型モンスターで、こっちもフルパーティーでボコった。かなり苦戦した相手で、その最大の特徴は常時雷を身体中に纏っている事。これのせいで、近接攻撃には確実に電流のカウンターを貰う。かと言ってその敏捷性による回避性能は並大抵の魔法を完全に回避してしまう。最終的には、短剣投擲で少しづつダメージを与えるという戦法を取った。


 配下の魔物が居なかったら、かなり厳しい戦いになっていただろうな。


 しかし、ついにここまで登ってきた最終的な俺のステータスはかなりの物になっていた。



 クラス 死者の王

 スキル 《捕食》《隠密》《加速》《不死王》

 基本魔力15344

 魔力レベル16

 合計魔力39894

 配下

 キング 8922

 《近接戦闘》《身体強化》

 エンペラー 11320

 《威圧》《巨大化》

 リッチ 12853

 《超速再生》《火炎弾》

 クイーン 13292

 《分裂体》《鋭敏感覚》

 スノーダンサー 14698

 《短剣術》《スロウエッジ》《アイルリング》

 リヒト 18477

 《守護陣》《火炎砲弾》《自己回復》

 レイ 19237

 《雷鳴の咆哮》《恐怖の咆哮》

 ギン 22389

 《雷纏》《加速》《高質化》





 既に龍殺しを入れた幾つかの十番台魔法が使える段階にまで俺の魔力量は増えていた。全盛期の賢者は、魔力を数十万持っていたらしいが、それと比べてもしょうがない。


「そろそろ、戻ってもいい頃合いかもな」


 加えて、配下の魔物の魔力量も最初の頃とは見違えるような物になってきていた。それはつまり、スキルの性能がその分上がっているという事だ。ボスモンスターの場合、二つか三つ程度のスキルを持つが、そのどれもが魔法に近い性質を持っていた。どれも体内魔力を消費して使う類のスキルだったのだ。恐らく、根本的に全人類に目覚めた異能と、クラススキルや配下の特殊能力とは別物なのだと思う。


 これだけの戦力が手に入ったのなら、もうあの女やそれに並ぶ異能力者が相手でも十分に戦えるだろう。仮にあの女が5人居ても多分勝てると思う。


「キリもいい……か」


 100階層をクリアしたら、戻ろう。


 そう決心し、俺は99階層へ入った。




ーー




「貴様があの小娘の英雄か?」


 そこに居たのは、着物を着た黒髪ロン毛のおっさんだった。着物に草履に数百年前の日本にでも住んでいそうな、けれど、百歳を超えているという風でもない。


「若勝の知り合いですか?」


 他人のダンジョンに干渉できるような存在を俺は若勝以外に知らないし、小娘というなら、それは多分あいつの事だろう。


「そうだな、まあだが、敵かも知れぬぞ?」


 そう言って、男は何処からともなく刀を取り出してこちらに向けた。


「へぇ、だったら人型用の修業でも付けてくれよ」


「儂に稽古を付けろと申すか? なるほど、しかしそれも一興か……」


 亜空倉庫から二本の短剣を取り出す。


「っふ!」


 急接近からの上段一太刀を、短剣で受け止める。


 俺が受け流せないだと……?


「っは!」


 受け止めたはずの刀が、しかしその威力は想定の遥か上を言っていて、


「なっ!」


 俺の身体が吹き飛ばされる。


「よもや、その程度か?」


「っめぇ」


 いいぜ。身体強化の出力を少し上げよう。


 加速。


 立ち上がり、速攻で急接近から、


 大きく薙ぎ払う。


「ほう、少しは速く、そして強くなった」


 これで打ち合える。


「だが、それだけだ」


 更に、おっさんの腕力が上がった。


「誰が?」


 合わせて、俺も身体強化を強め、形状変化ムケイを無詠唱で発動し、俺の身体を支えるように踵の地面を盛り上がらせる。


「ほう?」


「それと、今度はこっちの番だ」


 俺は剣士じゃない。


炎息吹カリュウ


 零距離で避けられると思うなよ。


「炎はもう懲り懲りじゃ」


 な、炎の中で無傷だと……!?


「返そう。炎息吹カリュウ


 なんでお前が、その魔法を使える!?


短距離転移ショートショート


「ほう、アルベルトと同じ力か」


 一緒にするな。


 この魔法が使えるのは視界内限定。


 好き勝手跳べるであろうあの爺さんとは全く同じじゃない。


 男の後方へ転移した俺はすぐさま、魔法を唱えて走る。


風狼脚フェンリル


「死角へ回り込んだのなら、声を出さぬ方がよいぞ」


 旋回して。隠密。


「今度は消えたか。だが、耳を澄ませば」


 残念。


 一三術式、


音声遮断ボイスシャットだ』


「そうか。では、一つ忠告だ。匂いも消しておけ」


 キィン!


 今までで一番威力を持たせた一撃、龍殺しまで発動しているんだぞ。


 なんで受け止められるんだよ?


 しかも、完全に透明化していたはず。


 匂いで、何時振るうかまで解るとでもいうのか……!?


「だが、やはり貴様の術と儂の術は相性が悪いようだな」


「は?」


炎息吹カリュウ、これでガス欠か」


 第二一術式、


天之恵レイン


 空気中の水分を増加させ、水の膜を作り出す。


「水蒸気か……」


 大量の水に炎が加われば、煙が視界を覆う。


「悪いが、決めさせてもらう」


 視界を封じれば、この魔法の詠唱時間を稼げる。


 九番台は魔力制御は大変で参るな。


 第一九術式、


絶断アブソリュート


 絶対の斬撃は、空間を切り裂き突き抜ける。


「全く、参った……。まさか儂が負けるとは、これでまだ九十九階層でうろついておるのか」


 絶断を片手で受け止めながら、男はそんな事を口にしていた。


「全然参ってないだろ」


「いいや、止めるのが限界じゃ。早う解除してもらわねば儂でも死ぬな」


 はぁ、どうやら敵じゃなさそうだ。


 敵なら、最初から全力でやられてたら俺がもっと先に殺されていた。


 それこそ一合目で俺が死ななかったのはこの男が手を抜いてくれていたからなんだから。


「分かったよ」


「ふぅ。どうやら儂も貴様には期待してしまいそうだ」


 おっさんは俺を見据えてそんな事を言った。

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