第23話「相容れない人」

 帰り道――神楽坂さんからある場所に行く事をお願いされた俺は、少し戸惑いながら車を運転していた。

 というのも、彼女に頼まれて向かっているところがまさかの彼女の家なのだ。

 彼女は家出をしているはずなのにこんなにも簡単に帰ってもいいのだろうか?


 しかし、服などの着替えを取りに行く必要があると言われているので、下手にこちらで止めるわけにもいかなかった。

 下手に止めようものなら彼女の事だ、絶対に変な言い掛かりをつけてくる。


 例えば、着替えを用意させずに裸でいさせて楽しむんですね、とか――いや、さすがに言わないな。

 いくら神楽坂さんでもこんな事は言わないだろう。


 ただ、速攻で佐奈に連絡をされるかもしれない。

 佐奈にチクれば俺に効果的だといういらない知恵を付けさせてしまったからか、この子は何かあればすぐに佐奈に連絡しようとする。

 一応仲が良くなったみたいだしいいといえばいいのだけど……いや、やっぱり後で佐奈に怒られるからよくないな。

 かわいい妹に怒られるとか情けなくて悲しいのだ。


 ……また、美味しいものを食べに連れて行ったり服を買ってあげたりして佐奈のご機嫌をとっておこう。


 佐奈の機嫌を損ねる事が怖くなった俺は、一人心に強く誓っていた。


 そうしていると、ジッと神楽坂さんが俺の顔を見つめている事に気が付く。


「どうかした?」

「いえ、なんでもないです」

「そっか」


 まぁたまたまこちらに視線を向けていただけなのだろう。

 そう思った俺は前を向いて運転に集中するのだが――やっぱり、なぜか神楽坂さんは俺の顔をジッと見つめ続けていた。


「あのさ、やっぱり何かあるんじゃないの?」


 さすがに見つめ続けられると気になるので、俺は再度神楽坂さんに声をかけてみる。

 しかし、神楽坂さんは何もないと否定するだけで特段何かを言ってくることはなかった。


 だけど、やっぱり俺の顔をジッと見つめている。

 挙句何か熱っぽい溜息をはいていた。


 うん、絶対何かあるとしか思えない。


「何か悩みがあるなら聞くよ?」

「そういう解釈に至るお兄さんが悩みの種です」

「なんでそうなるんだ!?」


 心配して声をかけたのにまさかディスられるとは思わなかった。

 しかも全然変な事を言っていないのに、どうして悩みの種にされないといけないのか。


 相変わらずよくわからないところで生意気な子だ。


「そういえばお兄さん。お兄さんは相容れない人っていますか?」


 俺が文句を言いたげに視線を向けると、意図してかしらずか、神楽坂さんが話をすりかえてしまった。


 これはあれだろうか?

 俺が相容れない人だと遠回しに言っているのかな?

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