第22話「構ってほしたがり」

 ――その後は、訳がわかっていない店長さんが何かいい話ふうにまとめようとして神楽坂さんが素直に感謝出来ないと複雑な表情を浮かべてしまった。


 まぁ言わんとする事はわかる。

 店長さんのおかげで俺たちの間にあったお互いの後ろめたい気持ちは取り除ける事が出来た。

 だから本来なら感謝をするべきだ。


 しかし、彼の空気を読まない発言で神楽坂さんは一時的に追い込まれてしまった。

 そのせいで素直に感謝出来ないと言っているのだろう。


 店長さんは不穏な空気を感じ取ると早々に立ち去ってしまった。

 図体がデカい割に随分と身を引くのが早い人だ。

 ああいう危機察知能力に長けた人はきっと仕事でも成功するのだろう。


「お邪魔虫はいなくなりましたね」


 そしてこの子は随分と凄い物の言い方をするものだ。

 店長さんには聞こえてないだろうけど、聞こえたらきっと悲しむだろうな。


「あんまりそう言い方はよくないと思うよ?」

「いいのです、ああいう人は馬に蹴られてしまえばいいのです」


 何がいいのか全くわからない。

 とりあえず神楽坂さんは怒っているので、触らぬ神にたたりなしのように何も言わないでおこう。

 そうしていると、なぜか神楽坂さんがジッと俺の顔を見上げてきた。


「どうしたの?」

「お兄さんは、どうして何も聞かれないのですか?」

「どういう事?」

「その……私がお兄さんのお家に泊めて頂いている事などについてです」


 あぁ、なるほど。

 神楽坂さんは少し遠回しの言い方をしたけど、どうして神楽坂さんが家出をしている理由を聞かないのかと俺に聞いているのか。

 確かに彼女が来てから一度も俺は彼女に家出をしている理由を聞いた事はない。

 もちろん、それにも理由があるのだ。


「まぁ、あまり俺のほうから聞くのはよくないかなって思ったんだよ」

「どうしてですか?」

「聞かれたくないって人もいるだろ? だからさ、神楽坂さんが話したくなった時に聞けたらいいかなくらいに考えているんだ」


 俺の話を聞いて神楽坂さんが話さないといけないという責任を持たなくていいよう、俺はなるべく言葉を選びながら笑顔で告げた。

 すると、また神楽坂さんは俺の顔を見上げながらボーっとしてしまう。

 顔が赤くなってしまっているし、本当に熱があるんじゃないかと心配になってくる。

 だから俺はソッと神楽坂さんの額に手を添えたのだが、それがよくなかったようで神楽坂さんは『ひゃっ!』とかわいらしい声を上げて驚いてしまった。


「ななな、お兄さん、いったい何を……!?」

「いや、なんだかボーっとしているし、顔も赤いからやっぱり熱があるんじゃないかと思って測ろうとしたんだけど……。体温高いようだし、やっぱり熱が――」

「――ですから、これは熱ではないのです……!」


 触ってわかるくらい神楽坂さんの体温は高いのだけど、なぜか本人は熱じゃないと言い張っている。

 う~ん……意外と頑固だよな、この子は……。


「…………全くもう……どうしてお兄さんは私の気持ちに気付いてくれないのですか……」


 挙句、俺の腕に抱き着きながら下を向いてブツブツと何か文句を言っている。

 不満があるのなら離れればいいのに、本当によくわからない子だ。


 ――しかし、そのまま放っておくと段々と機嫌がよくなり、仔犬のように構って欲しそうな顔で俺の顔を見上げるようになった。

 こういうところはやっぱり年下らしくてかわいいと思う。


 俺は構ってほしたがりの神楽坂さんの相手をしながら、必要なものを買って次の目的地を目指すのだった。

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