第21話「お人好し」

 口を開いた神楽坂さんは、やはり負い目があるのか口を閉じてしまう。

 そして意を決したように口を開けば、思い留まったように再度閉じてしまい、開いては閉じるを繰り返すようになってしまった。

 なんとなく、今の彼女がどういう気持ちなのかはわかる。

 自分に後ろめたい事があるのを正直に話すのは勇気がいる事だ。

 俺は神楽坂さんにプレッシャーを与えないよう、優しく笑みを浮かべて彼女の言葉を待つ。

 すると、言い辛そうにしていた神楽坂さんは再度意を決したような表情を浮かべて口を開いた。


「お兄さんの言う通り……私とお兄さんはただ一緒に寝ていただけです……」


 おそらく、言葉を選んだのだろう。

 やはり女の子だけに直接な表現は恥ずかしかったのだろうし、言いたい事は今の言葉で十分伝わったため特に突くつもりもない。

 正直このままこの話を掘り下げて聞きたい事は色々とあるのだけど、これ以上聞くのは追い打ちになってしまうだろう。

 女子高校生に対してそれはさすがに酷だと思った俺は、ここで話を終わらせようとする。

 しかし、少しの間考えるために俺が黙り込んでしまっていたせいで、神楽坂さんのほうが話を続けてしまった。


「その……着られる服がなくなってしまって……それで……失礼を承知でお兄さんの棚を見させて頂いて……カッターシャツを見つけた時に……この案が浮かんでしまって……」

「なんでカッターシャツ? 確かに俺のカッターシャツはアイロンがいらないように作られたとても生地が柔らかくて着心地がいい物だけど――あっ、いや、うん、なんでもないです」


 話している最中にツッコミを入れてしまうと、察してくださいとでも言いたげな表情で見られてしまった。

 どうやらツッコんではいけなかったところらしい。

 佐奈といい、どうして女子高校生はこんな不思議な迫力を纏う時があるのだろうか。

 普通に年下に気圧されてしまうんだけど。


「お兄さんはすぐに茶化すんですから……」


 別に茶化したつもりはなかったのだけど、ここで否定をすると多分また怒らせてしまう。

 違うと思っても大人しく聞いておく、社会人になったらまず身に着けないといけないものだ。

 そうしないとこの社会、上司からの嫌がらせなどで早々に新人は潰されてしまう。

 今まで上の圧力と仕事のしんどさで辞めていく同期や後輩などをたくさん見てきた。


 ――と、まぁ今はそんな事はどうでもいいか。

 今大切なのは、神楽坂さんに負い目を感じさせない事だ。


 いや、ここで開き直られるとそれはそれでこの子の今後が心配になってくるのだけど、不必要に委縮させる事はしたくない。

 彼女だって、好きでこんな事をしたわけではないだろうし。


「ごめんね。それに、正直に話してくれてありがとう。約束通り君を追い出したりはしないから安心して」


 気を取り直すように、俺は笑顔で神楽坂さんに声を掛ける。

 彼女がちゃんと話してくれた以上、俺も約束を守らないといけない。

 ここで彼女から真実を引き出すために餌として先程のような事を言う屑ではなく、ちゃんと口にした以上俺は約束を守るのだ。

 後、心の底からホッとする事が出来た。

 今まで酔った勢いで高校生である神楽坂さんに手を出してしまったと凄く自己嫌悪に陥っていたけど、実は手を出していなかったという事で本当によかったと思う。

 これでちゃんと後ろめたさなしに佐奈と顔を合わせる事が出来そうだ。


「……お兄さんってお人好しですよね」


 一人安心していると、神楽坂さんも別の意味でもう安心してくれたのか、とても温かい目を俺に向けてきた。

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