第18話「繋がり」

 神楽坂さんはやはりよくわからない子で、抱き着いている俺の腕になぜか時々頬ずりをしてくる。

 そしてハッと我に返ったような表情をしたかと思えば、慌てたように俺の腕から頬を離してそっぽを向いていた。

 さっきからずっとこの繰り返しだ。

 この子は一人でいったい何をしているのだろうか?


「あのさ――」

「――おっ、ゲロの兄ちゃんじゃないか」


 神楽坂さんに声をかけようとした時、何処からか野太い声が聞こえてきた。

 声がしたほうを見れば、ガタイのいい四十歳くらいのおじさんがニヤニヤと俺たちのほうを見つめながら近寄ってきている。


 見覚えがあるような、ないような――はて、何処かで会った事がある人だろうか?


 記憶が曖昧になっており、俺はおじさんと会った事があるのかどうかわからなかった。

 何処にでもいるような顔付きではないし、誰かに似ているとかでもなさそうなため、見覚えがあるとすれば会った事があるという事なんだと思うのだけど……。


 というか、さっきこの人俺の事をなんて呼んだ?


「おぉ、やっぱりゲロの兄ちゃんたち出来ていたのか。通りで通りで」


 ガタイのいいおじさんは、俺に抱き着いている神楽坂さんを見てニヤニヤとしたまま、何かを納得したように何度も頷く。

 厳つい顔をしているおじさんが女子高校生を見つめてにやついている――一つ間違えれば通報物だ。


 そして、なぜ俺は『ゲロの兄ちゃん』なんて呼ばれ方をしているのか……。


「えっと、どちら様ですか……?」


 随分と慣れ慣れしいおじさんに俺は訝しげに尋ねてみる。

 すると、おじさんは信じられないという顔で俺の顔を見てきた。


「兄ちゃん、昨日人の店の前で盛大に吐いてくれたってのに、俺の事覚えていないのかよ」

「吐いた……? 俺が……?」

「なんだ、その事も覚えてねぇのか。まぁ、大分酔ってたからなぁ」


 おじさんの言葉を聞き、俺の中で全てが一つに繋がる。

 店の前でというのはともかく、酔っていたという言葉で思い浮かぶのは昨日俺が居酒屋で飲み過ぎていた事。

 そして俺と神楽坂さんは居酒屋を出た所でも会っている。

 その辺を踏まえると、このおじさんが俺と神楽坂さんの両方を知っている態度をとっていた事も腑に落ちた。

 なんせこの人は、俺が飲み過ぎてしまった居酒屋の店長さんなのだから。


 おじさんの言葉を聞いていて、やっと俺はその事を思い出す。

 という事は、どうやら俺はおじさんのお店の前で戻してしまったらしい。

 これは申し訳ない事をしてしまった。


「お店の前で戻してしまっていたなんて、すみません……」

「いや、謝るなら俺じゃなくそこのお嬢ちゃんにだろ。ちゃんと謝ってお礼を言ったのか?」


 俺が頭を下げると、なぜかおじさんから謝る相手が違うと言われてしまう。

 どういう事だろうと思って神楽坂さんに視線を向けると、何やら神楽坂さんは困ったように慌てていた。

 こっちはこっちでいったいどうしたのだろうか?


「あ、あの、店長さん、このお話はその辺で……」


 今すぐにでもこの話をやめたそうにする神楽坂さん。

 どうやらこの話は彼女にとって都合が悪い物らしい。

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