第15話「手の平返し」

「あっ、えっと……」


 自分たちの態度で神楽坂さんの機嫌を損ねてしまった事に気付いたのだろう。

 神楽坂さんに見つめられた三人は落ち着きなく視線を彷徨わせ始めた。

 そして視線を向ける先に困った三人はお互いの顔を見るようになり、何かを認識合わせしたかのように全員が頷く。


「その、さ……その人と神楽坂さんの関係ってなんなの?」


 代表して口を開いたのは、俺よりも背が高い180はあるだろうという丸坊主の少年。

 高校生にもなって丸坊主となれば野球部の可能性が高いだろう。


 もちろん普通に他の部活で丸坊主にする人間もいれば、お洒落で丸坊主にする人間もいるため絶対ではない。

 だけど三人ともが丸坊主でほどよい日焼けをしている事や、無駄な肉が一切付いていないがたいのいい体を見るに、野球部の可能性が高いだろう。


 後、偏見でしかないけどテンションが高いところとか。


「私たちはお付き合いをしております」

「「「なっ――!?」」」


 俺が野球部に対して偏見を抱いているなか、神楽坂さんの突然の暴露に男子たちは全員目を見開く。

 あわあわと指で俺と神楽坂さんを交互に差し、何かを言いたそうに口をパクパクと動かしているが、肝心な声が出ていない。


 どうやらあまりのショックに声が出ないようだ。


 彼らが神楽坂さんの同級生である事を可能性に考えていた俺は、おそらくこうなるだろうと予想していたので驚きはしない。

 神楽坂さんの同級生となれば当然佐奈の同級生にもなる。

 何処でどう繋がっているかわからないし、佐奈がいない場所でも俺たちが付き合っているという事にしておいたほうが安全なのだ。


 ……その代わり、佐奈に心配された通り男子たちの嫉妬心は全て受け止めないといけないわけなのだけど。


「な、ななな、なんでこんな奴なんかと……!」

「そ、そそ、そうだよ! こ、こんな草食系の代表みたいな顔をした奴なんかの何処がいいんだ!?」


 うん、随分な言われようじゃないか。

 それに草食系の代表みたいな顔ってどんな顔だよ。

 そんな事初めて言われたぞ。


 俺は動揺した男子たちの蔑むような言葉に心の中でツッコみを入れる。

 口にしなかったのは相手にするのがめんどくさかったのと、なんだか隣にいる神楽坂さんが更に不機嫌になっていたからだ。


 下手に口を挟んで巻き添えを喰らいたくない。


「草食系の何がだめなのですか? かわいくていいではないですか」


 若干険を帯びた声を出して男子たちを見つめる神楽坂さん。

 だけど纏う雰囲気は声以上に黒くて息苦しい。

 普段ならかわいさを感じる笑みを浮かべてはいるが、それでさえ今の神楽坂さんの怖さを掻き立てる物へとなっている。


 まさかこの歳で女子高校生を怖いと感じるなど思いもしなかった。

 正面から受け止めている男子たちなんて全員青ざめている。

 どうやら神楽坂さんに恐怖を感じたのは俺の錯覚ではなかったらしい。


 ……だけど、一つ神楽坂さんに言いたい。

 俺の顔を草食系で進めるのはやめてくれないだろうか?

 それに男にかわいいは馬鹿にしていると捉えられてもおかしくない発言なのだけど?


 おそらくフォローで言ってくれたであろう神楽坂さんの言葉に俺は更に傷付いていた。

 男としての自信を失くしそうだ。


「「「いやいや、草食系なんて――」」」

「――それにこの御方、須山さんのお兄さんですよ?」


 あれ、神楽坂さん?

 どうして佐奈の兄である事をバラしたんだ……?


 俺が落ち込んでいる間になぜか神楽坂さんが佐奈との関係を暴露してしまい、俺はかなり戸惑ってしまった。

 だけど、男子生徒たちの目の色が変わった事で、神楽坂さんが何を思って俺と佐奈の関係を暴露したのかがわかってしまう。


「「「佐奈ちゃんのお兄さんだったんですか!?」」」


 佐奈の兄だと知ると三人とも異様な喰いつき方をしてきた。

 先程の不愉快な目ではなく、焦りながらも何かを期待しているような目だ。

 というかさっきからよく声が揃うけど、どれだけ仲がいいんだこの子たち。

 こんなにも声が揃うなんて、余程気が合う仲なのだろう。


 まぁそれはそれとして――佐奈、ちゃんだと……?

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