第14話「向かった先に待っていたのは」

 俺の服を買いに行く事になり、隣を歩く神楽坂さんの表情はとても輝いていた。

 なぜかわからないけど、彼女は俺の服を選んでみたいらしい。

 もしかしたら男物を選ぶ機会がないから、この機会に俺を着せ替え人形にして楽しもうと思っているのかもしれない。

 先程は小動物みたいに弱々しい表情をされて思わず頷いてしまったけど、あまり色々な服を着させられるようならちゃんと断ったほうがいいだろう。


「お兄さんはいつも何処のお店で服をお買いになられているのですか?」


 服屋を目指して歩く中、上機嫌な神楽坂さんが嬉しそうに俺の顔を見上げてくる。

 楽しそうにしてくれるのはいい事なのだけど、こんなにも嬉しそうな表情をされるととても断りづらい。

 実際に着せ替えが始まるともっと表情は輝くだろうし、これは覚悟をしておかないといけないかもしれないと思った。


 俺はニコニコ笑顔でこちらを見上げる神楽坂さんに心の中で少し焦りながら口を開く。


「えっと、特に決まってはないかな。適当に入ったお店でいい服があれば試着してみて、それで問題がなければ買う感じだよ」


 服自体にそれほどこだわりがない俺は、特定の店で買う事はなくいつも見て歩いて買う服を決めている。

 だからそのままを答えたのだけど――この場合は返答をミスったかもしれない。


「それでは、色々なお店に入って着てみる必要がありますね!」


 俺の言葉を聞き、更に目を輝かせる神楽坂さん。

 うん、完全に返答をミスってしまった。

 これはもしかしなくても色々なお店で着せ替え人形にされるのだろう。


 どうしよう、今すぐに帰りたい。


 隣を歩く美少女のテンションが上がる事に対して反比例するかのように俺のテンションは下がっていく。

 しかし、どうやら俺を待っている不幸は着せ替え人形にされる事だけではなかったようだ。


 それは、近くにあった服屋に入った事で起きる。


「――あれ? あっ、神楽坂さん!?」

「ほんとだ神楽坂さんだ!」

「ラッキー! 休日に神楽坂さんに会えるとか最高かよ!」


 カジュアルな男物の服を扱うお店に入ると、高校生らしき三人組の男子が俺たち――いや、俺の隣を歩く神楽坂さんを見つけて声をあげた。

 どうやら神楽坂さんの知り合いらしい。

 それに彼女を見てハイテンションになった事を見るに、少なからず全員彼女に好意を寄せているようだ。


 ――となればだ、当然その好意を寄せる相手の隣を歩く俺に対して何も思わないはずがない。

 神楽坂さんを見つけて駆け寄ってきた三人は、訝しげな表情で俺の顔を見てきた。


「何、こいつ? うちの生徒にこんな奴いたか?」

「まぁ一応年上に見えるから先輩じゃね? だとしたら見た事なくても不思議じゃねぇよ」

「てか、神楽坂さんとどういう関係だよ」


 俺が神楽坂さんの連れだという事に気が付くと、途端に柄が悪くなる三人組。


 これはあれだな。

 全員相手に対して性格を変える、根は悪い奴だ。


 後、一応言っておくけど俺は高校生ではなく社会人なのだけど……。


「お兄さんは顔付きが顔付きなので、どうしても若く見えてしまうのですよ。いいではないですか、若く見られるのはお得ですよ」


 俺は顔にでも出してしまったのか、慌てたように神楽坂さんがフォローをしてくれた。

 だけど、あまりフォローになってない気がする。


「そんな若く見えるかな?」

「まぁ、高校三年生くらいには見えてしまいますね」


 それは随分と若く見えているような……。

 実際は二十四なのだから、六歳ぐらい年下に見られているわけだ。

 昔から幼く見られる事はあったけど、さすがに社会人になってからは言われなくなった。

 だから年相応に見られるようになったと思っていたのに、どうやら見られ方はあまり変わってなかったらしい。

 ちょっとショックだ。


「それよりも皆さん、初対面の年上の御方に対する態度として先程の態度はどうなのでしょうか?」


 俺がショックを受けていると、佐奈の時と同じように丁寧な喋り方になった神楽坂さんが男子たちに視線を向けた。

 その雰囲気からは、隣で見ていても不機嫌になった事がわかる。

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