第11話「撫でられたい少女」

 車に乗って移動する中、助手席に座る美少女は頬を膨らませて拗ねていた。

 プクッとかわいらしく頬を膨らませ、不機嫌そうに俺の顔を見つめている。

 普通こういう時は外を眺めると思うのだけど、俺に文句があるというアピールをしているのかもしれない。


 まさか、頭を撫でるフリをしてからかうだけでここまで拗ねるとは思わなかった。

 余程神楽坂さんは頭を撫でられるのが好きなのだろう。


「お兄さんのばか」

「ごめんってば」

「鬼畜、変態、ドS」

「待って! 一気に罵倒のレベルが上がったよ!?」


 神楽坂さんは不機嫌さを隠そうともせずにかわいらしい声で罵倒をしてきている。

 彼女を好きな男子とかMっ気がある男子なら喜ぶのかもしれないけど、生憎俺にはどちらも該当しない。

 頬を膨らませて拗ねる神楽坂さんは子供っぽくてかわいいと思うけど、罵倒をされるのは嫌なのだ。


「お兄さんがいじわるするからです……!」

「もう何度も謝ったじゃないか」

「乙女心を弄んだ罪は重いのですよ……!」


 乙女心?

 子供心ではなく?


 どう考えても頭を撫でられたいのは子供心だと思うけど、ここでそんなツッコミを入れると絶対に怒らせる事は目に見えている。

 だから俺は余計な事は言わず、ごめんとだけ謝って運転に集中する事にした。


 しかし、それはそれで気に入らなかったようで、神楽坂さんは頬を膨らませた状態で俺の顔を見つめ続けている。

 そして信号で車が止まると、クイクイッと俺の服の袖を引っ張ってきた。

 運転中にしなかったのは、俺の注意を引いてしまって事故を起こす事を恐れたのだろう。


「どうかした?」

「…………」


 声を掛けてみても無言でこちらを見つめてくるだけ。

 だからまた前を向くと、同じようにクイクイッと服の袖を引っ張ってくる。

 そして視線を向けてみれば、ジッと俺の顔を見つめてくるだけで何も言わない。


 いったい何がしたいんだ。


「何?」

「むぅ……」


 首を傾げて尋ねてみると、神楽坂さんは更に頬を膨らませてしまう。

 何かをアピールしているようだけど、よくわからない。

 俺は超能力者じゃないんだからちゃんと言葉にしてくれないと困る。


「どうしたの?」

「…………」


 再度質問をしてみると、神楽坂さんはなぜか無言で頭を差し出してきた。


 ――と同時に、俺は信号が青になった事に気が付く。


「あっ、ごめん青だ」


 信号が青になっているのに止まっていると後ろの車に迷惑をかけるため、俺は前を向いて車を発進させる。

 すると、隣から感じる神楽坂さんの不機嫌さが増した気がしたけど、こればかりは仕方がない。

 だからそんな頬をパンパンに膨らませて俺の顔を見つめないでほしいのだが……。


 助手席からジッと俺の顔を見つめている神楽坂さんの表情が更に不機嫌なものになり、比例するかのように車内の空気が更に重くなったため俺は早く目的地に着いてほしいと思った。

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