レジ袋ゼロデー
~ 十月五日(月) レジ袋ゼロデー ~
※
慌ててわけ分からんなる状態
悪い事をするたびに。
誰だって思うの。
早く謝らないとって。
でも叱られるのはいやだなって。
……でも。
どうしても言えない。
だってこれは。
大人だって悩む罪。
いつになったら告白できるのだろう。
あるいはずっとこのまま。
黙っていればいいのだろうか。
誰にも知られたくないの。
……その罪が。
生き物にまつわる事だと。
~´∀`~´∀`~´∀`~
「…………環境問題とは」
あまりの惨状に。
思わず口をつく。
「こういうのって、見て見ないふりしてるうちに普通になっちゃうんだよねー」
「何とかしたいけど、業者に出せるほどの予算が無くて……」
夜の学校、再び。
でも、今日は前ほど怖くねえ。
人によっては相当怖いらしいが。
俺としては、こっちはかなり平気。
夜のプール。
揺れる水面に反射する月明り。
今日の目的は。
七不思議のひとつ。
夜になると、勝手に音を奏でるプールの調査というわけだ。
そんなプールの隅の隅。
金網フェンスに囲まれた敷地内。
水泳部部室棟のうらっかわ。
懐中電灯で照らす先には……。
「椅子とか机とか。小さな冷蔵庫まで捨ててあるけど」
「でもほとんどは空き缶とペットボトルね」
「レジ袋もたくさんあるわね……」
「も、もったいない」
「そこかよ」
レジ袋有料化により。
コロネを買いにくくなったと嘆くこいつらしい意見。
そんな、年中金欠女。
俺にのしかかるように建物の裏をのぞき込んでるせいで。
長い髪が頬をくすぐってきやがるから気になる気になる。
「まあ、ここは後回しにしようぜ。それより、音ってなんだ?」
「それが分かれば苦労しないって! でも、波はちゃぷちゃぷいうよねえ?」
「……いや? 何にも聞こえねえけど」
「聞こえるわよ」
「聞こえねえっての」
先週、お兄さんたちと一緒にワンコ・バーガーで大騒ぎしたせいで。
結構距離が縮まった六本木先輩。
聞こえる聞こえねえと楽しく押し問答してると。
急に、びくっと体を震わせた。
「どうした? 今日、そんなに寒くねえだろ」
「そ、そじゃなくて……。なんか、振動みたいな音聞こえない?」
「ああ、それなら安心しろ。震源地はあいつだ」
六本木さんが恐る恐る振り返る先。
俺が顎でしゃくった方。
秋乃が。
ガクガクぶるぶる震えてるせい。
しかも、その理由と来たら。
「ほ、ほ、ほんとに? もう、中間試験一週間前……?」
「やだ、そんなに不安? 勉強、そんなに苦手?」
「この世から無くなってしまえばいいって思う程度には……」
「ぷっ! 無くなったら大変ね……」
「お前は人類の進化を止める気か」
現代社会に至るために必要だった要素の内。
最もその重要性を理解されづらい文化。
教育。
教育が無ければ、人類はどんな素晴らしい発見や発明をしても。
進化できなかったんだぜ?
「たつ、保坂君……。たつけて……」
二文字目まで言えるようになったのかと思ったら。
単に、噛んだだけかよ。
呆れた思い切りの悪さだが。
こと、勉強については思い切りよく一分たりともやらねえお前に。
勉強教えるの。
面倒なんだけど。
「知らん。それより、しがみついてがくがく震えるな」
秋乃は、わざわざ上着の内側に手を突っ込んできて。
ワイシャツを握っているんだが。
不思議と、お前が怯える姿を見てると。
どんどん怖くなってくる。
そんな思いに呼応して。
生ぬるい風が水面を走ると。
六本木さんじゃねえけど。
水の音が耳に届いたような気がした。
そう、水の音だ。
水の音だから気にするな、俺。
「ほ、保坂君。今、なにか聞こえた……、よね?」
「なんにも!? 全然何にも聞こえませんですけど!?」
「子供の泣き声みたいな……」
「聞こえねえってなに言ってんの!? じゃあ、何も聞こえねえから帰ろうぜ!」「あ、あっちの方……」
「やめろ確認するならひとりで行け! この手を離せ!」
どうしてお前は時たま馬鹿力発揮するんだよ!
ワイシャツの裾を握られたまま。
プールの隅にずりずり引っ張られると。
今度ははっきり。
泣き声のようなものが聞こえた気がしウソウソウソ!!!
「わー! わーーーー! 俺には何にも聞こえね聞こえね聞こえねえ! 秋乃、放せ引っ張んなこの馬鹿力め! 俺はちょっと東京五輪選考会に指相撲日本代表選手として呼ばれてるから行かなきゃいけなくて……」
「やっぱり、聞こえる……?」
「全然何にも聞こえねえからちょっと引っ張るなっ!」
無理無理無理無理!
よし、こうなったらワイシャツ脱いで逃げ出そう!
俺は恐怖のあまり震える手で。
袖のボタン外して胸のボタン上から二つ外して秋乃が袖のボタン戻して三つ目が外れねえからああもう全部バババババーン! よし逃げろ!
「ぎゃああああああああ!!!」
大慌てで秋乃に背を向けて。
こいつが掴んでるワイシャツ、ずるっと脱ぎ棄てて。
走り出した途端に。
「ぐへっ!?」
両袖後ろに引かれて。
背中からコンクリに落ちて後頭部打った。
「いでえええええ!」
「ぎゃはははははは! 急に服脱いで、何やってんのよ保坂君!」
「あら、結構いい腹筋……。さすが指相撲日本代表」
「た、保坂君。……大丈夫?」
何が大丈夫? だ、この野郎!
今更記憶をリピートしてみたらお前が袖のボタン戻してたじゃねえか!
どうなるか気づかねえ俺も大概だと思うけど。
「大丈夫なわけあるか!」
「頭……」
「ああ、めちゃめちゃいてえ!」
「ううん? 頭、大丈夫?」
「うはははははははははははは!!! そっちかよ!」
ひでえ言い様だなこの野郎!
でも、客観的に見たら確かに。
女子三人の前で急に脱ぎ出した危ない男か。
「せ、正常なのにやった……、の? このまま当局へ連行?」
「すな」
「すでにパトカーのサイレンの音が……」
「いや、そんな音聞こえねえだろ。笛みてえな音は聞こえるが……、ん?」
後ろに両袖引っ張られたまま。
抵抗できねえ状態で地面にあぐらかいてた俺の目の前。
金網フェンスに。
三本の瓶がささってる。
「おお、これの音か。ひでえイタズラしやがる」
「ゴミ……、よね?」
秋乃が、肩に提げてた懐中電灯で照らす先。
お尻をこっちに向けた空き瓶三本。
風が吹くたび、ほーっと音を鳴らすそいつらの底には。
「お? 漢字が一つずつ書いてある。犯人特定できそうだな」
「大胆な犯人ね。なんて書いてあんのよ」
「ロードの『道』に稲穂の『穂』。あとは『隼』って」
「はあああ!?」
うおっ?
知り合いか!?
俺を押しのけて瓶の底をまじまじと見つめた六本木さんが。
雛罌粟さんに振り返ると。
「ここに、『香』の字があればこんなことにならなかったはずなのに……」
「どうする?」
「どうするも何も。……卒業記念作品は、邪魔にならなければ残しておくのが通例よ?」
そんなこと言って、舌をペロッと出す雛罌粟さん。
お茶目なとこもあるんだな。
「そうね。……よし! そんじゃ、ここの七不思議も解明!」
「ん?」
「さあ、帰りましょ?」
たまに感じる違和感。
何かを隠すかのように強引に結論付けて。
とっとと歩き出す二人に。
遅れちゃまずいと立ち上がる。
……秋乃は。
しきりに後ろを気にしてるようだが。
あの声の正体調べたいとか言われると困るから。
素直に先輩二人に従ってとっとと帰ろう。
まあ。
それはさておき。
「あの……。俺、いつまでこの格好のままなんですか? 刑事さん」
「べ、弁護士は私が引き受けてあげるね……」
「驚いた。犯人に弁護されることになろうとは」
こうして俺は。
用務員室に半裸のまま連行されて。
武志さんに叫び声をあげさせた。
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