不動産の日



 悪い事をするたびに。

 誰だって思うの。


 早く謝らないとって。

 でも叱られるのはいやだなって。


 そんな悲しい気持ちに。

 どうしてなるのかと言えば。


 それは、空から見ていた神様が。

 みんなに与える罰だから。


 だから、悪ければ悪いほど。

 言い辛ければ言い辛いほど。


 悲しい時間が長くなるという。

 重い罪を与えられるの。



 ……でも。

 どうしても言えない。


 だってこれは。

 大人だって悩む罪。


 いつになったら告白できるのだろう。

 あるいはずっとこのまま。

 黙っていればいいのだろうか。



 誰にも知られたくないの。



 ……その罪が。

 生き物にまつわる事だと。





 秋乃は立哉を笑わせたい 第6笑

 =友達と、謎を暴いてみよう!=




 ~ 九月二十三日(水) 不動産の日 ~

 ※権謀術数けんぼうじゅっすう

  人を騙すための策略。




 文化祭明けの教室は。

 器材や木材が至る所に転がって。

 平常とは言えない有様だ。


 でも、平常じゃない教室内で。

 最も平常じゃない俺たちが。


 みんなから指をさされて笑われるのは。

 まあ、しょうがないことだろう。


「立哉~! なんでジャージなの~?」

「……偶然、洗ったばっかりだったから」

「どういう意味だ~?」

「そんで、舞浜ちゃんはなんで男子制服なのん?」

「本人に聞いてくれ」


 一旦帰ればよかったろうに。

 俺の制服をぶかぶかに羽織って。


 ふくれっ面しているのは。

 舞浜まいはま秋乃あきの


「……何でそれ着て来た」

「ち、遅刻しちゃいそうだったから……」


 結局、朝まで天岩戸が開かなかったせいで。

 やむを得ずジャージで電車に乗る羽目になったんだが。


 俺の一本後の電車に乗ったこいつの方が。

 注目を浴びたに違いない。


「あっは! この変な現象なあに?」


 今までは誤魔化してきたが。

 昼休みになっては尋問時間が長すぎる。


 とっとと白状した方がいいのだろうか。


 俺は、楽しそうに椅子で足を組む王子くんに。


「ざっくりでいいか?」

「うん!」


 どうしてこうなったかの、あらましを考えて。

 それをざっくり短い文章にして伝えてみた。


「秋乃のせい」

「六文字って。ざっくり切りすぎだよ。……じゃあ舞浜ちゃん、教えて?」

「保坂君のせい」

「あれ? 立哉くんじゃなくて?」

「保坂君のせい」


 俺の六文字じゃまるで理解してくれなかった王子くんが。


 秋乃の八文字ですべてを理解した。


「なんだ。保坂のせいじゃない、すぐ謝りなよ」

「どうしてだ!?」

「こんなに怒らせるなんてかわいそう」

「何をどう解釈したのさ」

「あっは! 僕は名探偵だからねっ!」


 そして王子くんが鞄から出したマントを翻すと。

 教室中の耳目はあっという間に移動した。


 助かったぜ。


「……こら秋乃。あの土地はちゃんと返してもらえるんだろうな?」

「あそこは凜々花ちゃんとあたしのものになりました」

「保険金だけじゃ済まないの!? なに企んでるんだお前!」

「その内、席の所有権も奪う」

「取られてたまるか」


 しかし、昨日怖い目に遭わせたのは確かに俺のせいだし。


 ここはなんとかご機嫌とろう。


「ほれ、メシ食おう。前から言ってた通り、今日は春巻きだ」

「……あ。ご飯、無い……」

「持って来てあるっての。ほら、お前の分」

「あ、ありがと……、ね?」

「そんで春巻き」

「うわあ……」


 タッパーから覗くキツネ色。

 大ぶりの揚げ春巻き十本。


 外で食ったらそこそこの金額するんだ。

 機嫌直せよ?



 そんで、このオマケで。



 楽しく笑ってもらおうか?



 秋乃が春巻きのタッパーを嬉しそうに眺めてるうちに。


 鞄から、消毒用のアルコールボトルを出して。

 わざと気を引くように机に置く。


 ふっふっふ。

 我ながら権謀術数けんぼうじゅっすうに秀でているな。


 この中身。

 実はお酢!


 あとはタッパーを噴出孔の下に置いて。

 春巻きにかけて驚かせた後。

 種明かしをすれば大笑い……。



 しゅっ!



「うわ待て待て! 手に使うんじゃなくて!」

「……え? ……すっぱ」


 手の臭い嗅いで顔しかめた後。

 笑うはずもなく。

 怒ってる。


「……お酢?」

「そう」

「……ふう」


 なんだよ、綺麗に中身入れ替えるのすげえ苦労したんだぞ?


 ちょっとは笑ってくれても。


 ウェットティッシュでごしごし拭いて。

 手の臭い、クンクン嗅いだ後。


 秋乃はも一度ため息ついて。


「……お醤油」


 鞄から。



 高級そうなブランデーボトルを出して机に置いた。



「うはははははははははははは!!!」

「…………被った」

「それでムッとしてたのかお前は!」


 ……って、これ。

 親父の部屋で見たぞ?


 そうか、家に帰ってないんだから当然か。


「やだ……、お酒?」

「いや? 中身は醤油……、って! 雛罌粟ひなげしさん!?」

「こんにちは」


 いつの間に後ろに立っていたのやら。

 自然と会話に混ざって来たのは。


 三年生の雛罌粟さん。


 秋乃と同じような清楚なロングヘアーを持つ副会長さんには。

 文化祭の時本当にお世話になった。


「ごめんね、保坂君。変なこと頼んじゃって」

「いや、返しきれねえ恩があるわけですから。お安い御用です」

「じゃあ、詳細は改めて説明するわね。しばらく放課後とかお時間もらうけど」

「はい」


 昨日、電話で話していた内容。

 秋乃も聞いていたわけだし。

 説明しなくても理解しているだろう。


 そう思いながら、横目でちらりと見てみれば。

 こいつは、栗色の瞳をこれでもかと開いて。


「……しばらく?」

「ん?」

「放課後?」

「ああ。調査にどれぐらいかかるか分からないけど」

「……わた、私もやる!」

「ええ!? お前、あれだけ怖がってたのに!?」


 一体どうしたのやら。

 秋乃が急に参加を表明すると。


「二人もいると助かるわ。じゃあ、舞浜さんもお願いするわね。詳しくはまた連絡するから」


 雛罌粟さんは、嬉しそうに。

 教室をあとにしたんだが……。


「…………おい」

「だだだ、大丈夫」

「そう言いながら震えてるようだが?」

「ほんと、大丈夫」

「そう言いながら俺の椅子に座るな落っこちるだろうが」


 よっぽど無理してるんだろう。

 ぐいぐいくっ付いて来ようとするから。


 俺は席から立たなきゃならなくなったんだが。


「……す、座ってもらわないと、困る……」

「がっつり座ってるやつに言われても。ちょっと避けるなりしろ」

「こ、腰が抜けて動けない……」

「じゃあ俺が秋乃の席に……」

「やだやだやだ」

「ジャージの裾握るなっ!」



 こうして俺は。

 さっきの宣言通り。


 席の所有権を奪われたまま。

 午後の授業を立って受ける羽目になった。



「…………こら」

「へい」

「俺のセリフを取るな」

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