第二話

 男の子と少年がエレベーターから降りて真っ直ぐ進んで行く、ある部屋の前で足を止める。

 足を止めた部屋の玄関扉の下から大量の血液が水漏れしたように流れ、廊下に血の池を作り出していた。


「はぁー。先走りやがって」


 男の子が肩まで伸びた髪を掻きむしりながら、血の池を踏みつけたながら呟く。

 それを合図に後方に控えていた少年が、ゆっくりと奇抜な金色に輝く革製のライダースジャケットの内側から回転式拳銃リボルバーを取り出すと。


「ルーク」


 少年が男の子の名を呼ぶと。

 ルークは自分を呼んだ少年、平蔵へいぞうの瞳をチラっと覗くと軽く頷いた。

 意志疎通。

 平蔵は血溜まりの上を歩きドアの真正面の廊下の腰壁に腰を押し当て、銃口を開く扉に構える。

 準備ができたことを確認するとルークが部屋のドアノブ側の壁に背中を押しつけながらドアノブを逆手に握り回しながら、引っ張り扉を開いていく。

 と!

 勢いよく扉が開く。


「「――――!」」


 強固に武装した警察官だったであろう人物が、廊下に飛び出るように横たわった。その姿を見たルークは、無意識に舌打ちした。

 顔面が大きく窪んだ人間の頭が曲がらない向きに曲がっていた。


「全滅」


 開いた扉の真正面で銃口を部屋の中に構えたまま、平蔵が、淡々と状況を伝えた。


「了解」


 平蔵と同じようにルークも、淡々と返事をした。



 二人の視界に飛び込んできた光景に一瞬だが、目を細めた。

 リビングに続く通路に肉塊となった武装した警察官たちの死体が、これ見よがしに、順番に並べられていた。


「ぼ、ぼく、かえりたい、なぁ」

「おれも」


 意思疎通。

 つくづく、面倒な……。


 信じがたいが生首が死んだ目でこちらを見ていた。

 予想はしていたリビングに向って並べてある死体から頭部が消えていたからだ。

 その予想は正解した。

 リビングにある食卓の上に料理が並ぶのではなく、死体から消えていた頭部が、ご丁寧なことにリビングに入ってきた者と視線が合うように計算した配置の仕方で並べてあった。

 

獄門ごくもん


 平蔵が呟くと。


「あー。たしか、この国のナニ時代だったかの死刑方法の一つだったな」


 ルークが軽い口調で、答えた。


「江戸時代ね。正確に言えば、六種類の死刑方法のなかの一つだね」


 ルークの答えに、平蔵が答えを付け足した。


「ほぉー、で。あと、残りはどんな方法があるんだ」


 ルークは瞳を輝かせながら、平蔵に尋ねた。

 しばらく沈黙したあと、仕方ないなといた表情を平蔵が見せると。


下手人げしゅにん――――」


 手の指を一本、一本、立てながら教師のような説明口調で、死刑方法を教えていく。


「――――火罪かざいだね」


 そして、最後の五本目の指を立て、平蔵の手が、じゃんけんのパーの形になったとき。


「この状況でも。なかなかに、興味深い話をしているじゃ、ない、かい。お二人さん」


 ある方向から、おどけ口調で、二人に話しかけてくる。


「アンタが、奢ってくれるなら、茶飲み友達になってやってもいいぜ」


 ルークも同様におどけ口調で、リビングの奥の部屋に話しかける。

 すると、リビングの奥の部屋から扉をすり抜けて、ボサボサの髪で今まで研究室で徹夜してました、といったシワだらけの白衣を着た背の高い男性が姿を現す。

 

「悪いねぇー、いま、手持ちがなくてねぇー。次にしてもらっても、いいかな?」


 綺麗な輪郭の整った顔の顎に手を当て、首を傾けながら心底残念そうな声でルークの誘いを断った。

 誘いを断られたルークは、子どもらしい愛らしい笑い顔を作った――次の瞬間! 鋭い獲物を捉える目つきをし。


平蔵へいぞう!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 00:00 予定は変更される可能性があります

神神の微笑。マルドゥク・コンダクター 八五三(はちごさん) @futatsume358

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ