マルドゥク・コンダクター

はちごさん

第一話

 男が男の子を脅していた。


「ガキ、帰れ!」


 ドスの利いた声でド迫力のある顔を押しつけるように近づけられた子どもは、漆黒の瞳を細めながらド迫力のある顔に物怖じするどころか、逆に喰って掛かる。


「お前が帰れ! 能無し!」


 男が舌打ちした拍子に、男の子の頭頂部が!


「ッ!」


 鼻の頭を押さえながら男は、痛みで後方によろめきながら、くぐもった声で。


「公務執行妨害で――」

「す、すみません! お、遅くなりました!」


 どこで販売しているのだろうと思わせてしまう奇抜な金色に輝く革製のライダースジャケットに、おなじくどこで販売しているのだろうと思わせてしまう奇抜な銀色に輝く革製のライディングパンツを着た少年が大きな声で謝罪しながらマンションのエントランスに駆け込んで来た。


「遅いぞ! 平蔵へいぞう!」


 男に頭突きを食らわせた男の子が不機嫌そうな顔をしながら、奇抜なファッションの少年に強い口調で文句と名を叫んだ。

 

「そぅ、言われてもー。ルーク」


 奇抜なファッションをしているにも関わらず、平蔵と呼ばれた少年は頼りない顔つきなうえ、情けない声で横柄な態度している男の子に、言い訳をしていた。


「お前はたちは! なんなんだー!」


 公務執行妨害と口にした男を不愉快が絶頂に達し、エントランスを震えさせる大声で、二人に叫んだ。


 奇抜なファッションでエントランスに飛び込んで来た少年は、その声に驚き、顔を引きつらせたあと。慌てて胸ポケットから一枚のカードを取り出し頭を下げながらそのカードを差し出し見せながら。


「バウンティハンター、です!」


 奇抜なファッションをした少年こと平蔵にルークと呼ばれた男の子は。

 外国人の子ども特有の子どもながも、大人顔負けの憎たらしい表情をしながら。人差し指と中指で挟んだ一枚のカードをこれ見よがしに、チラつかせ。


「賞金稼ぎ、だ!」


 二人の言葉に一時的に貧血を起こしたように、男の瞳から覇気が消え、ぼやくように。


「お、おまえ、たちが……。賞金稼ぎバウンティハンター



 エレベーターのワイヤーロープが巻き上げられる音と上昇負荷を感じるなか、一人の少年が。


「すみませんでした、田中警部。うちの部下が大変失礼な――痛!」


 謝罪している少年のライディングシューズのプロテクターが入っていない部分を狙いすまして、男の子がしかめ面をしながらかかとで踏みつけていた。


「……、わる、かったな」


 お天道さまの下を歩くには怖すぎる顔をした、田中警部が少年の謝罪の言葉に謝罪の言葉で返した。


「俺も悪かった。走って来たら来たで、あのお出迎えだったからな」


 少年の足を踵で踏みつけている男の子も謝罪の言葉を口にする。

 田中は男の子が、自分たちのために必死で駆けつけてくれたことに心の底から嬉しかった。


「ありがとう」

「礼はいらない。後手ごてに回ると面倒だからだ」


 男の子が自分を見上げている瞳の色を見た瞬間に、大きく息を吸い込んだ。自分が間違った認識をこの男の子にしていたことに。

 自分たちのことを心配して走って駆けつけたのではなく、発した言葉のとおりに、これからする仕事をいかにらくにするかだけを目的にしていたこと。

 それから。

 自分たちことなど、一切心配していないということだった。


 エレベーターが指定された階に停止し、扉が開いていく。


「……、……」


 田中の額から大量の汗が吹き出しながら、顔色が真っ青になっていく。


「おい」


 掛け声と足の痛みで、田中は意識を取り戻す。

 男の子が少年にしていたように、自分の履いている革靴を踵で踏みつけながら、睨むように見上げながら。


「このマンションの住人たちの避難はどうなっている?」

「お、おわってる」

「了解した。お前はそのまま、一階のボタンを押せ。そして、場合によっては、特殊非常事態宣言を発令しろと伝えろ。それがお前に、いま、出来る、仕事だ」


 男の子が命令し終えると、エレベーターから通路に向って歩き出す。すると、追いかけるように少年も一緒にエレベーターを降りた。

 田中は言われたとおりに一階のボタンを押した。扉が完全に閉まり終え、フワッと宙に浮く感覚が身体を包み込むと。

 膝から崩れ落ち、視線がエレベーターの床に。


「――馬鹿ども、が」

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