待機スペースにて1

 白露との戦闘を終え、龍牙は新たな場所に転移した。そこは、例えるならホテルのロビーのよう。

 自販機、ソファー、巨大なモニターには別の参加者だろうか? 先ほどと似たような状況の試合が映っている。

 挙げ句に土産物店。まったく、誰が買うというのだろうか。

 だが、そんなツッコミも龍牙は口にしなかった。そんなことよりも、全身に満ちる高揚感のほうがずっと大事だった。

 龍鎖封印式――自身に制限をかけていたとはいえ、負けた。元の世界でなら、この制限ありでも負けることがなかった龍牙が、だ。

 連邦の勇者たち相手では絶対にあり得ない出来事。自然と、龍牙は笑いを漏らしていた。


「くくく……俺が負けた。龍鎖封印式を解いてない状態だと、明日葉とガーディーしか勝負にならなかったのに……くくく……くはは……あははははっ!!」


 楽しい。こんな感情、果たしていつ以来だろうか?

 龍牙の興味は、自然と他の人に向かった。

 モニターでは、金髪のハーフエルフとクール系の美女が向かい合っていた。エルフ族は、連邦軍として何度も立ちはだかってきたから嫌いだが、モニターの中のハーフエルフに対してはそんなこと思わなかった。どちらの女性からも、確かな強者感を感じる。

 ロビーには、白露の他にも様々な人がいた。皆、例外なく高い能力があることが伺える。早々に負けてしまったことが悔やまれるばかりだ。

 龍牙が冷たく笑い、少し離れた場所に移動する。人目につかない場所まで来ると、壁に魔法陣を書き込んだ。

 解析の魔法陣。これを使い、この空間について把握する。


「……同一次元の平行世界線……か。なら、マディアスで研究されていた異世界から有能な若者を召喚するあの術。あれを改変すれば、世界線を越えて転移可能……か?」


 龍牙の目的は、この場に集う強者たちの世界を覗くことだった。

 元の世界でも仕事は残っている。だが、別世界にこれほどの強者がいると分かった以上、どうにか関わりを持ちたい。

 なら、暇な時に転移して、その世界に影響のない範囲で遊べばよいのでは? そう考えたのだ。

 龍牙が、その場所の壁にとある魔法を刻み込む。龍牙の転移魔法発動と同時に、平行世界線を一時的に接続する術式だ。多数の世界から存在を呼べるこの空間に設置して初めて意味を為す魔法。

 設置を確認した龍牙がロビーに戻る。

 どうやら試合は終わったようで、ロビーには龍牙を含める十人全員が揃っていた。

 またしても、あのふざけた声が聞こえる。


『お疲れーさまでーしたー! ではこれより、二回戦&敗者復活戦ー!』


 敗者復活戦?

 龍牙は、思わずにやけてしまった。これでまた、強い奴と戦える。勝つことが出来れば、また、白露とやりあえる。

 浮かび上がった対戦表を確認する。


「相手は……ディアンとシルヴィア……二人組なのか」


 なら、見つけやすい。ロビーにいる人物たちを見ていく。

 いた。向こうも龍牙に気づいたらしく、互いの視線が交差する。


「ほぉ……"ステータスチェック"」


 相手の魔力や精神力、スタミナといった戦闘に関する大まかな強さを知ることができる魔法。それを発動させ、情報を集めようとする。

 だが、上手くいかない。見たこともない言語で表示され、翻訳魔法を使ってもお手上げだった。

 思わず笑ってしまう。実力が未知数の相手と戦うのは嫌いじゃない。

 龍牙の体が淡く光る。転移魔法で、フィールドに向かうのだろう。

 聞こえたかは分からないが、龍牙が小さく呟いた。


「さあ、やろうか。楽しませてくれ」


 言い終わると同時に、戦闘フィールドへと転移する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る