招待

 時頃は昼下がり。

 野良仕事がひと段落し、日も少し傾いてこれから夕方に向かおうかと言う所。


「今日は何を持って来た?」


 馬に乗ったままのグリステルに、先に言葉を掛けたのはバドガーだった。


「こんにちはバドガー。ひどく雨が降ったようでしたがこちらは大丈夫でしたか?」

「挨拶はいい。今日は何を持って来たんじゃ?」


 グリステルは微笑んで言った。


「今日は土産はありません」

「なんじゃと?」

「代わりに、ご都合が良ければ晩餐にご招待しようかと」

「晩餐……」

「井戸水で冷やしたワインと、焼き立ての肉もあります。ご同道願えればテーブルまでお連れ致します。馬には乗れますか?」

「馬鹿にするな」

「私の後ろへ。善は急げです」

 グリステルは手を差し伸べた。

「……フン」

 バドガーはその手を取って、グリステルが一旦開けた鐙を足掛かりに、その後ろに跨った。

 

***


「どこへ行くんじゃ」

「すぐそばですよ」


 それ切り女戦士は喋らない。

 女戦士の言葉とは裏腹に、道行きはかなりの長さだった。


「お主は何者じゃ?」

 バドガーはぼそり、とグリステルに尋ねた。

「何者、とは?」

「ヒュームでありながら豚頭のディスパテルを仲間にしておる」

「ええ」

「ワインは上物で、だが飲んだことのない味だった。あれは我々ドワーフの酒でも、ヒュームの酒でもあるまい」

「…………」

「それに魚。あれは海の魚だろう。干物とはいえここらで求めれば高価なはず。元騎士だか元料理人だか知らんが、農夫の手土産にぽんぽん寄越せるものではあるまい」

「話せば長い。その辺りのお話も、晩餐の席で」


 女戦士は馬を止めた。

 森の半ば、何もないそのど真ん中である。


「着いたのか?」

「ここからは徒歩です」

「徒歩?」

「少し険しい坂を登ります。道を外すと馬が潰れる」

「土産から察するに金ならあるのだろう」

「あなたは友が死んだら買い替えよと仰るのか?」


 女戦士の声は僅かに怒りを含んでいた。

 彼女が初めて出す不機嫌な声だった。

 だが、バドガーはグリステルの抑えた感情が漏れ出す様子がなんだか好ましく思えて、頬を緩めてしまった。


 二人は茂みの間に細く続く獣道のような小径を歩いた。道は女戦士が言った通り次第に坂道となり、バドガーは大いに汗をかき、息を切らした。彼はどこかの屋敷に連れて行かれるものと想像していたが、彼女はどうやら小高い丘の頂上を目指してるようで、その意図を汲みかねたバドガーはこの坂道を涼しい顔で黙々と登ってゆく不思議な女戦士のことが知りたくなった。


「着きました。こちらです」


「おお」


 バドガーは感嘆の声を漏らした。

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