再来
翌日。
流れの女戦士はまたやって来た。
ドワーフは昨日と同じく畑に水をやり無駄葉をちぎり芋の茎に付いた虫を殺している所だった。
「お仕事中、申し訳ない」
「おお、昨日のヒュームのお嬢ちゃんか」
「精が出ますね。あー……そう言えばお名前をまだ伺っていませんでした」
「……バドガーじゃ。バドガー・シュタイン」
「バドガー師」
「当て擦りはよせ。ヒュームは農夫を師と呼ぶのか?」
「そう言うつもりでは……バドガー師も鍛治をされるのでしょう? 優れた技術者には、我々ヒュームも敬意を払います」
「わしは鍛治はやらん。芋の畑専門よ。だから師だの殿だのはいらん。バドガーと呼べ」
「改めて宜しく。バドガー。グリステルです」
「それはもう聞いた。悪いが握手はせんぞ。ドワーフには気安く相手の身体に触れる風習はないんだ」
「実は忘れ物をしまして」
「これじゃろう」
バドガーはナイフの刃を持って、柄の部分をグリステルに差し出した。
「ああ、良かった。思い入れのあるものだったので」
「これで用向きは終わったな。さっさと帰れ」
「そのように。あ、そうそう。ワインは口に合いましたかな?」
「あの果実酒か。美味かった。だが量が全然足りん」
「気に入って頂けたなら幸いでした。同じものを、今日は樽で持ってきました。馬に積む都合で二つの小樽に分けていますが」
バドガーはごくり、と喉をならした。
「置いていけ。毒味はいい。嬢ちゃんが毒味すると樽が一つになる」
「御意のままに。では。ナイフを預かってくださりありがとうございました」
女戦士はぺこりと礼をすると再び馬に跨り、去っていった。
バドガーは畦道に置かれた二つの樽を見て、今夜の晩酌に胸を躍らせた。
***
翌日。
女戦士はまたやって来た。
「今日はなんの用じゃ」
「実は、仲間に叱られました」
「仲間? あの豚男か?」
「酒だけ大量に持って行って肴がないとは、酒の価値が半分になると」
「それは、そうかもしれんの」
「私は酒はあまり飲まないもので肴まで気が回らなかったことは御容赦願いたい。つきましては今日の荷は干した魚と酢漬けのキュウリです。晩酌のお供にお召しください。では」
バドガーは女戦士が置いて行った二つの包みを見て、ごくり、と喉をならした。
***
しかし翌日、女戦士は訪れなかった。
バドガーは畑仕事をし、ワインで喉を潤し、炙った干魚に舌鼓を打った。
その翌日は雨だった。女戦士は来なかった。
バドガーは用水路を見回り、その水扉の調整をし、畝の崩れを直して、夜はやはりワインを飲んで、酢漬けのキュウリを食べた。
その翌日も女戦士は来なかった。
バドガーはワインを飲んで、干魚と酢漬けのキュウリの残りを全て食べてしまった。
女戦士の置き土産は、ワインだけとなった。
そして、その翌日に、女戦士は再びやって来た。
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