1~4, all finish.
「ねえねえ。あっ」
「おっと。これは失礼」
さっき。ベルを銃で撃ち抜いたせいで、人が来たのに気付かなかった。
大学生。そういえば、3日経ったのか。
「いや、まあ、ちょうどいいかな。どうぞここへ」
「え?」
「まあまあ。で、どうでしたか?」
「条件付きでおっけいもらったの」
大学生。嬉しそうな顔。
「それはそれは。おめでとうございます。ようやくの成功ですね」
大学生。へこんだ顔。感情の起伏が激しいな。
「それが、そうもいかなくて」
大学生。隣の総監のほうを、ちらちらと見る。
「このかたの前で喋るのも、報酬のうちだと思ってください」
「え、はずかしい」
「大丈夫ですよ。このかたも、恋人にベッドから蹴り落とされたんで、16時間戻してほしいっていう程度の依頼ですから」
「あらまあ」
「おい。なぜ喋る」
「まあまあ。で、条件とは?」
「そう。そこなの。依頼にもならないんだけど、とにかく聞いて」
大学生。身を乗り出してくる。
「わたしの好きなひと。どうやら病院の都合で転院を繰り返されて、それでここに流れ着いてきたらしいの。青い救急車に運ばれてきたって、言ってた」
青い救急車。
「それは、うちの管区の特別部署だ。青い救急車は、人を運ぶ仕事をしている」
「あ、嘘だと思ったら、本当なのね」
「警察の部署だから、大っぴらには宣伝していない」
変な繋がりが出てきたな。大学生と、管区総監。
「でね。運ばれてきたときの関係上、なんか、彼、戸籍がないらしくて」
「戸籍がない?」
「うん。ないの。なんでかは分からないけど」
戸籍がない男か。
「もしかして、病院、駅前の市民病院ですか?」
「うん」
「そこ、けっこう成果重視で。外部から勝手に患者運んできて治したりもするんですけど、そのあいだに書類申請が漏れたとか、かな」
「とにかく。戸籍がないの。犯罪者と勘違いされたら、チームが瓦解しちゃう」
「結婚して、戸籍を申請すればいい」
「順序がそれを許さないのよ。まず合同チームで治験を行う。それでわたしの好きな人が治る。そしてはじめて告白受諾なの。戸籍がないと、最初の治験ができないし合同チームでも被験者の説明ができない」
「いまの企業はコンプライアンスとかありますからね。この前も、なんだっけ、麻亡製薬でしたっけ。お役所から捜査入ってましたけど」
「あれはちょっと別口だな」
「そうなんですか」
話は分かった。
「さて。では、全てまとめるとしましょう」
「まとまるのか、これが?」
「ええ。総監はまず、警部補に連絡を」
「なぜだ」
「最近戸籍を盗んだ犯人を捕まえたからです」
「あっ」
「そう。盗んだ戸籍のなかでひとついいのを選んで、あなたの好きなひとにあげましょう。いいですね総監」
「そのかわりに、16時間戻すのか」
「ええ。この現役大学生のアドバイス付きでね」
「ベッドから蹴り落とされたんだ、よね?」
「ああ、まあ」
「もしかしてさ。お風呂も入らないでいきなり?」
「え」
「帰ってきてすぐ、歯も磨かず、着替えもしないでいきなりベッドに?」
「あ、いや、ええと」
「それ、誰でも蹴り落とすと思うよ?」
「そうなのか」
「よいアドバイスですね」
「帰ったらまずお風呂に入って。歯を磨いて。綺麗な下着を着て。その上でお伺いをたてるの」
「風呂、歯磨き、綺麗な下着」
ご丁寧にメモまでとってる。
「お相手のかたは、異性、同性?」
「同性」
「じゃあ、ちゃんと身体を拭いて匂いも確認して。デリケートな部分は特に。これはとても重要」
「身体を拭いて匂いを」
「あはははは」
「おいっ」
「すいません。つい。こらえられなくて」
「おうい。来たぞ。なんだ。何か用か」
「あ、警部補。ちょっと外で待ってていただけますか?」
「あ、ああ。まあいいけど」
警部補。回れ右をして外に出る。
「毛の処理は大丈夫?」
「毛の、処理?」
「うそ。ぜんぜんだめじゃないこの人。なにこれ」
「ここはお任せします。今回はサービスで24時間戻しますので、身支度のレクチャーをみっちり」
「それはもう。戸籍はもらえるんですよね?」
「約束する。もう警部補も来ているし」
「では、私は警部補にお話を通してきましょう」
カウンターを立った。
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