04 ベッド(16時間半)

 誰かが入ってくる。


「そこで止まれ」


 知らない人間。


「動くな」


 動こうとしたので、玄関のベルを銃で撃ち抜いた。


「次はそのベルが、お前の頭だ」


「それはそれは。こわいな」


 若い女性。立ち止まる。


「普通の女性が来る場所ではない。出ていけ」


「店主が普通の女性なのにか?」


「それはこちらの都合だ」


 女性。かなり強い視線。死線を潜った者の、眼つき。


「うちの警部補、そうだな、管区内の捜査官からの推薦だ」


「信じられないな」


「話を聞いていないか。管区内の総監なんだが」


「は?」


「私が総監だ」


 女性だったのか。


「あ、いま、女性だったのかと思っただろ?」


「ええ。まあ。聞きしに勝る武勇伝なので」


「信じてもらえたかな?」


「半分は。どうぞ店内へ」


「ありがたいよ」


「依頼ですか?」


「ああ。経過した時間や前後にあった出来事を喋れば、時間を戻したり進めたりできると聞いた」


「警部補から?」


「あ、ええと、捜査官、から」


「この街に警部補はひとりしかいませんよ」


「失言だったなあ。すまん警部補」


「まあいいです。話を聞きましょう」


「16時間戻してほしい。時間を」


「なぜ」


「それが報酬になるのか?」


「話によります」


 女性。突然やわらかくなる、雰囲気。


「十六時間前。夜の零時」


「はい」


「恋人と、その、一緒に寝ようとしてな」


「はい?」


「ベッドから蹴って落とされた。それで喧嘩になってしまって。やりなおしたい」


「大学生みたいな依頼ですね?」


 一緒に寝そこねたから、巻き戻すとは。初心なカップルなのかもしれない。


 カップル。いまの自分から、最も、遠いもの。


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