03 銃声と過去の記憶(十分後)

 男が数人押し入ってくる。


「強盗だ」


 強盗。このご時世に。


「時計屋だな。高い時計を出せ」


 向けられた、銃口。


 いちおう、本物。


「はやくしろっ」


 見たことがない顔だった。


 電話をかける。


「おい。動くなといっているだろう」


 銃。向けられているが、カウンター越しなので距離はある。


「あ、警察ですか。警部補いますか?」


 取り次ぎ音。


『おう。どうした』


「いま、うちに強盗来てるんですけど」


『ああ。組織の残党だな』


「組織の残党?」


 銃。


 発砲音。


 男がひとり、倒れた。


 叫び声。膝に当たっただろうか。


『ついこの前、この街にあった銃器密売組織のアジトがぶっ壊されたのさ。管区総監直々の攻撃だったらしい』


「じゃあ、こいつらは」


『その残党だな。お前なら時間を戻すまでもないだろうが。応援はいるか?』


 銃声。2回。叫び声。


「応援というより、事後処理が欲しいですね」


『いいぜ。調書とか現場とかは適当にやっといてやるよ。何人だ?』


「五人です。ひとりは脚。二人は両腕。残りは腹と背中で」


 銃声。声は挙がらない。


『殺すなよ?』


「死んだら戻すんで」


『おお、こわいこわい。じゃあ十分後な』


「十分後ですね」


 メモに書き留める。


 電話を置いた。


 目の前。


 転がった男が、五人。


「死んでないかな?」


 ひとりずつ、傷口を脚で踏みつける。呻き声。


「よし。大丈夫」


 銃をそこらへんに放り投げて、カウンターの奥に戻った。


 十分。動かす。


 硝煙の匂いが、自分を過去へと押し戻してしまいそうだった。どうしようもない、不安。


「おい。来たぞ」


「ようこそ。こちらも、いま終わったところです」


「いやいや。お前十分前に倒して移動してきただけだろ」


「報酬は五人の首で、大丈夫ですか?」


「充分だよ。管区の総監に突き出しておく。さぞかしご立腹だそうだ」


「ご立腹?」


「最近、恋人と喧嘩したらしい」

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