参戦とクーデター

ついに参戦当日、会議には、

ウォール議長、エマリー軍代理、リナ諜報長官、ウージ財務部長などの政権幹部。

ミュー・フラワー陸軍中将など、参謀本部の3人も一同に会していた。

さらに各部署の事務方の職員が何人かもいる。

フィール外交部部長は宣戦布告の手続きのため、会議に参加せず、事務作業にあたっている。


ちなみに、ウォールは一週間、毎日政界の重鎮や軍上層部の人間と会食を重ね、根回しに努めた。

根回しや調整は彼の得意分野であり、それが評価されウォールは議長になったといっても過言ではない。


「13時15分、ファーストオーバー作戦を開始する決定に異議がある人は?」

ファーストオーバー作戦とは南フューザック侵攻作戦の正式名称である。


誰も手をあげない。根回しはすでに済んでいるからである。


「よし、決行を許可する。フィール外交部部長に連絡を」

ウォールの隣にいる外交部の職員に言うと一礼し、礼を部屋を出て行った。


会議はすでに形式的なもので、”調整”という仕事を終えた政治家たちはお茶を飲み、終始和やかに談笑した。

普段は激論を行い、出されたお茶を一口を飲まないという日もあるのにだ。


「お疲れ様でした。ウォール議長」

エマリー軍代理がウォールに話しかけた。


「これからが本番だろう」

ウォールが嗜める。


「良いではありませんか。一息つくことも大切だと思いますよ」

エマリーが珍しく微笑みかけた。


「確かに、それもそうかもしれない」

ウォールが心なしか少し姿勢を崩した。


「頑張りすぎなのよ」

リナ諜報長官は諭すようにウォールに語りかけた。


「分かってる」


「そうですぞ。ウォール議長が倒れては私の立場がなくなってしまう」

ウージ財務部長の平常運転の発言にエマリー軍代理は失笑してしまった。

ちなみに、リナは微笑みつつ、内心キレ気味である。


「そういえば、ネルシイで万国博覧会があるそうですよ」

エマリーが話題を変えるように、発言する。


「万国博覧会?」

ウージが尋ねる。


「万国博覧会、各国の誇る素晴らしい技術を誇示することを目的とした展覧会よ。

今は産業革命で科学技術を駆使した新しいものがどんどん出ているそうなの」

リナが嬉しそうに語る。

ウォールはリナが興味があるのだろうなと推測した。


「最も、ネルシイ・フューザック戦争と我が国の参加見送りで、第一回は事実上の一カ国展なのですけどね」

これはエマリーの発言だ。


「我が国からも使節団を出すべきだと言いたいのか?」

ウォール議長がエマリーに尋ねる。


「その通りです」


「確かに良い選択かもしれない、

ユマイルとネルシイの同盟の誇示に繋がるだろう」

ウォールは少し考え込んで。


「分かった。外交部経由で打診してみよう」

ウォールがそう締め括るのだった。


談笑しているところに突然、この世の終わりのような形相をした警備員が駆け込んでくる。

一同は驚いたようにそちらを見た。


「ク、クーデターです。海軍が…!」

一同は思わずお互いを見合わせ、次の行動に移ろうとした時だった。


パンと重い金属を粉々にしたような音が鳴り響く。

拳銃の音だと一同は確信し、エマリーは海軍のFA2式小銃だと型まで推測していた。

腹を撃ち抜かれた警備員をよそにぞろぞろと屈強な人々が入ってくる。


「何事です!私は一言も出撃命令を出していない!」

エマリーが怒鳴りつける。

軍のトップで最高指揮権の一部を持つ彼女の言葉に思わず、彼らは怖気付いた。


「これはクーデターです。エマリー軍代理」

彼らに声をかけると、道を開ける。

歩いてきたのは、ザワエル・ボーン海軍大将だった。


エマリーは軍刀に手をかけようとすると、後ろにいたクーデター部隊はエマリーに銃を向けた。

おそらく、間違いなくエマリーは殺され、ここにいる面々も同様だろう、

そうすれば、あろうことか、国運をかけた作戦中に政権が空っぽになってしまう。

ザワエルは彼らを静止させ、エマリーは軍刀を鞘に戻した。


ボーン家の次男と長男、ザワエルとウージは目があった。


「ボーン家の恥晒しが…。

昔からできそこないだとは思っていたが、まさかここまでとはな。

お父様もおかわいそうだ」


「黙れ!

たまたま長男であっただけの保身家が!

貴様をボーン家の長男にしたのは神の最悪の失策だ!

貴様にこの憂国の志士たちの気持ちがわかるか?!」

ザワエルが怒鳴りつけた。


「ああ、分からないとも。野蛮な小僧ども」

ウージはカッとなっているのか自分の保身すら忘れ、反論する。

珍しい光景に政権一同はこの危機的な状況を気にせず、見入っている。


ザワエルは反論をせず、リナの方を睨みつけた。

その後、鬼の形相をして海軍のサーベルを抜き、リナのサーベルを首の近くに持ってきた。


「リナ・・・」

その静かな声は殺意と憎悪で満ち溢れていた。


「リナ・・・」

何かを耐えるような声、本来止めるべき政権の人々も今声を掛ければ、最悪な結果を招くだろうという確信があった。


「リナ・・・!」

最後の終盤、激昂するように名を叫んだ。


「貴様のせいで俺の人生は無茶苦茶だ!

あの一件、軍の風紀委員会に伝えただろう!

憲兵どもが嗅ぎ回っていた!

そうやって、いい子ちゃん気取ってウォール議長に媚び売っていればいいと思うなよ!」

変貌ぶりにただただ唖然とする会議室でザワエルはサーベルをあげ、大声で捲し立てる。


「この女は、エマリー軍代理をな…!俺に…殺させようとしたんだよ!!脅してな!」

ウォールは思わず、リナの方を見た。

リナは緊張したおもむきで前を見つめていた。


「本当なのですか?」

エマリーはリナに問うた。


「妄言は妄想の中だけにしなさい。

エマリー軍代理もクーデター部隊の思うツボですよ」

リナはザワエルの方を見て、


「私を犯人に仕立て上げたいのなら…

証拠を持ってきなさい」

毅然とした怒気のある声だった。


思わず、ザワエルも動揺をしてしまった。

―――証拠。

強く刺さる言葉だ。

なければ、本当にザワエルの妄言になってしまう。


侵攻部隊がフューザックを越境した頃、ユマイル首都では数千人の海軍海兵隊率いるザワエル・ボーン海軍大将によるクーデターによって混乱に陥ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フェー二ング大陸物語 ペンギン内閣(旧) @FineNeck

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ