紛糾
今日、ウォール議長、ウージ財務部長、エマリー軍代理、リナ諜報長官が集まり、定例会議が開かれていた。
しかし、今回はいつもとは違い重大な議題が出されていた。
「ネルシイと同盟を結ぶにはリスクが大きすぎます。
これではネルシイを叩く機会があっても使えなくなってしまう」
発言者はエマリー軍代理。彼女はこのネルシイ同盟案に反対の立場だ。
「しかし、だからといって敗戦濃厚のフューザックと組めないわ。
このまま態度を曖昧にすればネルシイに敵視されかねない」
リナ長官はそう主張する。
「仮に帝都が陥落したとしても、フューザックにはまだ有力諸侯が残っていて、それぞれに有力な軍を持っている。
フューザックが勝利とまではいかなくても、戦いが消耗戦や最終的には停戦になる可能性は十分にあると思いますが」
エマリーがリナの方を向いている。
「ネルシイがフューザックを滅ぼしきれないと?」
リナがそう聞く。
「ええ、その可能性は十分にあるかと」
エマリーは自信に満ち溢れた声で答える。
「なら、我々が滅ぼせばいいではないか?
フューザックの残党も滅ぼせないほど我が軍は軟弱なのか?」
2人の間に割り込んだのはウージ財務部長だ。
「”残党”といっても主君を殺され、復讐に燃える士気の高い軍ですよ。
そう簡単なものではありません、国一つと戦うのと同じです」
エマリーが不機嫌そうに答える。
「国と戦うためにあるのが軍だろう?出し惜しみする気かね?」
ウージ財務部長がさらに質問する。
「私は無駄な戦争は避け、ネルシイとの決戦に備えるべきだと言っているのです」
エマリー軍代理はそう言う。
「エマリー軍代理。君の言い分もよく分かる。
今回の同盟はあくまでフューザック戦争中のものだがそれでも難しいか?」
ウォールが場を収めようとした。
「そもそも、フューザックとの戦争中にネルシイを叩くべきだと考えています。
終わってしまってからでは、もう彼らは我々との戦争の準備を急ピッチで始めてしまうでしょう。
…いや、彼らはもうすでに準備しているのかもしれません。戦後を見据えて」
エマリーが言うことに皆一理あると感じており、黙るしかなかった。
「まあ、こうなることは予想できていた。
そこで外交部経由でいくつか変更した上でネルシイに提案を行った」
沈黙の中、ウォールの声はよく響いた。
「提案ですか?それはまたなんと?」
ウージが聞く。
「ネルシイとユマイルはフューザックを直接占領するのではなく、
傀儡国家として2国を独立させ事実上統治させる方針だ」
それに対してエマリーは驚いたように言う。
「なぜ、そんな重要事項を会議で事前に通さないのですか?」
エマリーの声は不快そうだ。
「会議なんて通したら、タイムアウトになるのが目に見えている。
それに、戦時法は遵守していて、そもそもこの会議自体非公式なものだ。
議長が負う主な責務は議会への事後報告だ」
「マナー違反ですよ。通例は守っていただかないと…」
エマリーが呆れたように言う。
「ルール違反でないならば、問題はない」
ウォール議長はエマリー軍代理が強い怒りを覚えるのは理解できたが、
ここで止めてしまえば、同盟が成立しなくなってしまうという危機感があった。
「傀儡国家ならば、条約は適応されない。
つまり、傀儡国家経由でネルシイに侵攻することが可能ということ。
しかしそれでは、同盟の意味が薄れてしまうのではないですか?
ネルシイにも同様なことがおこなえるわけで」
リナ長官が補足説明をする。
「ネルシイとの直接対決は避けられる。
それには大きな意義があり、さらに、大陸統一の悲願も諦めずに済む」
ウォールがそう答えると
エマリーはこれまでにないほど怒りをあらわにし
「なんて、情けない。
こんなあやふやな中間点に逃げ込むだなんて、私は断固として反対します」
とぶちまけた。
「大切なのは名誉より結果だ、エマリー軍代理。
それを見失えば、破滅の道をたどるだろう」
ウォールがエマリーを見据える。
「道化のようになって飲む勝利の美酒は美味しいでしょうか?」
「ああ、美味しいとも。
たとえどのような過程があろうとも、勝利の美酒であることに変わりはない」
ウォールとエマリーの押し問答に誰も割り込むことができなかった。
「ウォール議長はこの案をどのようなことがあろうと、通すのでしょう」
エマリーが独り言のように呟いた。
「俺はこの案に対して相当な覚悟を持って、今ここにいる」
「…ならば、仕方がありませんね。私も組織の人間ですから」
エマリーがため息をついたのち
「しかし、軍の中には一刻も早くネルシイを潰すべきだと考えている人など山程います。
お忘れなきように」
と付け加えた。
「エマリー軍代理。
それは脅迫ですか?」
リナが鋭い目をしてエマリーに問うた。
「いいえ。言葉通りの意味です」
とエマリーはほほえみを返すのだった。
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作者より
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