会談

国境付近の要人御用達のユマイル伝統料理を振舞う高級ホテルでウォール議長とユリア国家元首は和やかに談笑をしていた。

ユリアの後ろにはネルシイの高官が2人。ウォールの後ろにはリナ諜報長官、フィール外交部部長が立って待機している。

鮮やかに力強い赤いカーペットに落ち着くピアノの音が流れる。

とても高い天井には柔らかい光が流れ、窓は驚くほど大きく開放感があった。


「お会いできて光栄です、ウォール議長」


「こちらこそ、ユリア元首」


「お忙しい中失礼したしました。ご予定の方は大丈夫でしたでしょうか?」


「いえ、今の天下のネルシイ、ユリア元首にお会いできると思えば、安いコストです」


「それはまた嬉しいことをおっしゃいますね」


しかし、ユリアの目は笑っていなかった。

ウォールも少し強張った微笑みを見せる。


「早速ですが、本題に入りましょう」


ユリアがそう切り出す。


「ユマイルは我々ネルシイ付近で軍事演習を行なっていますね。

我々とユマイルは過去に六回の国境紛争が起こされている。

その上、前回の紛争は一歩間違えば、全面戦争に発展しかねないものだった。

ユマイルはまた、そのような悲劇を起こそうとしているのですか?」


「それは全くの誤解です。

我々ネルシイはユマイルの侵攻から守るべくおこなっている、防衛的な意味での演習です。

むしろ第六次の時、越境してきたのはあなた方ではないですか?

今もネルシイは軍事演習を行なっている、危険な演習はやめていただきたい」


「反論しても良いですが、これでは平行線の議論になりますね」

ユリアが言う。


「ええ、そうだと思います」

とウォールも同意した。


「今回、我々はフューザック帝国と戦争状態になっています。

あなた方にとってもフューザック帝国は脅威ではありませんか?」


「ええ。そうですね」


「あなた方は、フューザックとネルシイどちらが一番の脅威だと考えていますか?」


「難しい質問だと思います。…正直ネルシイになりますね」


「やはりそうですか」


ユリアは一息お茶を一口含ませ飲むと、

「我々はユマイルと同盟を結びたいとそう考えております」


ウォールは少し固まり、厳しい顔で彼女の方を見た。

「我々が同盟を組むのは相当難しいと思いますが」


「まあ、そう焦らずに。

あなた方がフューザックとの戦争に協力してくだされば、我々とあなた方でフューザックの領土の統治を均等に分割いたします」

ユリアがそう言うと詳細が書かれた分厚い文書を取り出した。

それを後ろにいたフィール外交部部長が取ろうとする、しかしそれを横からスッと入ったリナ諜報長官が受け取った。


「私が先に見ます」

リナはフィールにそう耳打ちした。


「なるほど、これが同盟の対価ですか」


「ええ、悪いお話ではないと思いますが」


「我々もお聞きしてもいいですか?」


「どうぞ」

ユリアがそう聞く。


「ネルシイは本気で大陸統一を目指していますか?」


次はユリアが鋭い目をする番だった。

長い間沈黙が覆った。


「もちろん。この大陸全ての人の悲願ですから」


ウォールはその回答を黙って聞いていた。


「そう言うあなたはどうなのですか?」


ユリアが聞いた。


「ご想像にお任せします」


ウォールがそう柔らかく答えた。

ウォールは明言を避けた。彼は下手にネルシイを刺激するのを嫌がったのだ。

しかし内心では、鉱石より硬く炎より熱く大陸の統一を夢描いていた。


「そうですか…」

ユリアがそう呟く。

彼女も当然ウォールに自分と同じ情熱を感じ取っていたのである。


「同盟のご提案はこちらで議論したのち、外交部経由で返答させていただきます」


「問題ありません。お願いいたします」


現在ユマイル国民民族戦線では戦時体制法が可決しており、安全保障に関する条約を議会を通さずに批准することが可能な状態である。




会談が終わり、大型の馬車にウォール議長とリナ長官の2人が乗っている。


「予想通りでしたね。本当に同盟の提案をしてくるなんて」

リナがそう呟く。


「ああ」

ウォールが答える。


「ウォール議長はこの同盟に賛成なのですか?」


「俺もただの同盟には反対だが…。

今回の同盟はフューザックの半分の領土を分割して統治できる。

下手にネルシイと敵対し、敗戦濃厚なフューザックに近づき泥舟に乗るより、よっぽど安全だ」


「ネルシイが約束を守るかわかりません」


「その心配はないだろう。

いくらネルシイとはいえど、フューザックの帝都を占領した直後に我が国と戦う能力はないと思われる。

しかも、資料を見る限り、我々の占領地域は敵兵力が少なく、楽に占領できる地域だ」


「…あまりに都合がいいと思いません?」


「ああ、それは思った。

いくら二対一を恐れてとは言え、ここまでとはな…」


「なぜでしょうか?」


「ネルシイは何かを隠してる

と考えるのが自然だ」


「なるほど…」

リナが呟く。


「例え、そうだとしてもフューザック帝国全土がネルシイの占領地になるよりマシだ…」

ウォールは疲れ気味にそう吐き捨てたのだった。


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作者より

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