脅威の使い方
「ネルシイ商業諸国連合はフューザック帝国に連戦連勝。
帝都あと一歩まで進軍しているそうです」
そう、リナ長官が報告すると、会議の出席者からは感嘆の声が聞こえる。
「かつて最強を誇ったフューザック帝国も今や老大国。
ネルシイ商業諸国連合に経済力を抜かされてからというもの、落ちぶれましたな」
ウージ財務部長がそう、わらう。
「何を人ごとのように。
フューザック帝国が滅べば、次に狙われるのは我が国なのですよ」
エマリー軍代理が釘を刺す。
「海戦でも目に見張るものがあります。
小さな大砲を大量に使い波状攻撃で殲滅する姿は圧巻でした。
最初の海戦でフューザックの主力部隊を撃墜したネルシイは制海権を握ることに成功したのです。
制海権を握った後、フューザックは手も足も出なくなっています」
続いて、ザワエル・ボーン海軍大将が報告した。
「ネルシイはおそらく最大の敵だろう。
ただ、我々はネルシイだけではなく、フューザックにも経済力では劣っていることを忘れてはならない。
第12師団には引き続き国境の警備をフューザック間の国境警備を、ネルシイ間も同様だ」
とウォールが発言し終えた時、この部屋にノックが響く。
「誰だ?」
ウージがドアに向かって聞くと。
「外交部部長フィール・アンブレラです。
至急、ウォール議長にご報告したいことが」
「ふん。”諜報部の負け犬”をのこのこと入れるわけがない」
外交部がなぜ”諜報部の負け犬”と言われているのかというと、諜報部の左遷先に外交部が多く、出世争いに負けた人たちとウージが考えているためである。
「大人気ないことを言わないでください、ウージ部長。
ウォール議長、入室を許可してもよろしいですか?」
発言者はリナだ。
「構わない、許可します」
ウォールをよそにウージは不快そうな顔をする。
「失礼します」
フィール部長は小柄な女性だ。気弱そうにも見える。
腰を屈め、小動物のようにウォールに近づくと耳打ちをする。
「ユリア・ラパポルト ネルシイ商業諸国連合国家元首から会談の打診がありました」
ウォールがそう聞くと、驚いたように小声で聞く。
「いつがお望みと?」
「明日および明後日、国境付近のユマイル国民民族戦線側。
時刻および場所についてはこちらで指定してほしいとのことです」
「随分と急な話だな。分かった、改めて外交部経由で連絡すると伝えてくれ」
「わかりました」
フィール部長がそううなずくと、そそくさと出て行ってしまう。
「どう致しましたか?ウォール議長?」
エマリーがそうウォールに聞く。彼女はとても鋭い目でウォールを見据えていた。
「この場に伝えるべきことではない。
そして、今日の会議はこれ以上報告者がいない場合、解散とする。
大丈夫か?」
ウォール議長が周りにそう聞くと、参加者はうなずいた。
「では、解散とする」
ウォールがいうと、会議参加者はドアへ歩き出ていく。
「リナ長官、少し」
ウォールが最後に出ようとした呼びかける。
リナは振り返り、無言で近く。
「どうしましたか?」
会議にはリナとウォールしかいない。
「ネルシイのユリア元首から会談の打診があった。予定は明日か明後日、時刻と場所は国境付近ならこちらで決めてよいそうだ」
そう聞くと、リナは驚く。
「急ですね、何か急ぐ理由でもあるのでしょうか。
しかも、時刻と場所をこちらで決めていいだなんて、相当な譲歩ですね」
「もしかしたら、ネルシイは我々に同盟の話を持ちかけてくるのかもしれない」
「驚くべき話ですけど、今の状態だと不思議ではないですね」
「ああ、いくらフューザック帝国とは言え、帝都では激戦が予想される。
特にネルシイは、我々とフューザック帝国が接近するのを警戒していたため、決戦の前に不安材料を無くしておきたいのだろう」
「ええ、会議で伝えなくて正解でしたね」
「エマリー軍代理が何を言い出すか…」
ウォールが頭を抱えていう。
「エマリー軍代理はネルシイのフューザック帝国を滅ぼした後の標的が我々だと考えている。
だから、ネルシイがのフューザック帝国を侵攻するのを何もせず見ているのに反対している訳だ。
同盟を結んで、ネルシイの成長に貢献するなど彼女にとって言語道断だろう」
「しかし、フューザック帝国と組んだところでネルシイに勝てる保証はないわ」
「仮に一致団結できたとしても、勝てる保証はない。どちらを選んでも茨の道だ」
と区切った上で
「そういった意味では、エマリー軍代理は穏健派だけある。ある程度考えているのだろう。
彼女の考えには一理ある」
とウォールが言う。
「エマリー軍代理でさえ、穏健派に分類される軍はすごいですよね」
エマリー軍代理は陸軍中学を卒業したのち、准尉で従軍。
その後、第六次ネルシイ・ユマイル国境紛争で孤立無援の中、本隊が来るまで耐え抜いたことで、英雄視され、三階級特進している。
「彼女は一戦を交え、身をもって、ネルシイの脅威を理解したのだろう。
そろそろ対ネルシイの作戦プランを作成を終えるだろうから、どのように作るか楽しみだ」
「2国への即時開戦を主張しているミュー中将に聞かせてあげたいわ」
「ミゥー中将は陸軍大学校首席卒だが、実戦経験がないからか、
プライドが高い上に世間知らずな面があるのは否めない」
ウォールは話を区切る。
「リナ長官には、外交部と連携し、ユリア元首との会談の調節をしてほしい」
リナがうなずく。
「わかりました」
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