願い

 僕は卒業式を終えた。


 入学前は、合格発表で一喜一憂していたこの場所で、みんなが等しく喜んでいる。


 ただ一人、僕を除いて。


 僕は体育館裏にいた。


 右手には卒業証書を手にしている。


 日が当たらず、じめじめとした地面。


 僕は初めてここにきていた。


 なぜここにきていたか、というと、それが最後の機会だからだ。


 放課後は、部活動で騒がしいため、そこは「違う」。


 でも、今日は卒業式だった。


 今や、体育館には誰もおらず、全員が昇降口の外に出て、集合写真を撮ったりしている。


 その喧噪が、わずかに僕の耳に届いていた。


 心地よいノイズ。


 僕だけがここにいる。


 俯いて、コンクリートの壁に寄りかかる。


 そこへ、「神」が来た。


 いや、「神」が現れた。


 三年前と全く同じように。


 でも、僕は驚きはしなかった。そこに来ることはあらかじめ分かっていたのだから。


「そなたは、我の条件を満たした。さあ、願いを告げるがよい」



 僕は、「神」を見た。


 黒い。影とまったく変わり映えしないその姿を。


 僕は決められていた「願い」を口にする。





「僕を———男にして」




「よかろう」






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