いじめ


 これ以降、そういう種類の『視線』が増えた。


 それまで、クラスメイトに話し掛けられるという機会は滅多になかった。

 けれど、その班決め以降、やたら僕に絡む人間がちらほらと見かけるようになった。


 そしてその度に、「味方」が現れる。本人は僕のことを助けようとでも思っているのかもしれない。

 けど、僕に言わせれば、それは単純に


 だから僕は、クラスメイト達なんかより、「味方」の方がよっぽど憎かった。


 僕が何も返事をしないのをいいことに、大声で変な噂を流したり、またある時は僕に聞こえないように(実際はしっかりと聞こえるのだが)小声で陰口を言いあったり。




 それらはすべて、「いじめ」と呼ばれる種類のものなのかもしれない。けど、僕にしてみれば、それはいじめではなかった。


 そもそも、いじめというものは、いじめられている本人がそれとして認識しないかぎり、いじめにはならない。


 よって、この場合はいじめではないのだ。他の誰がなんと言おうと、これはいじめではなかった。


 では何だったのか?


 それは、僕にも分からない。精神的な苦痛を受けていなかったと言えば嘘になる。けど、それは仕方がないことだった。


 考えてみれば当然のことだ。何かしらの障害によって会話ができない、というわけではなく、僕は私情で会話をしないようにしている。


 だったら、しかるべきデメリットを享受きょうじゅしなければならないのだ。


 だから例の班決めが「いじめ」に該当するものかというと、それは間違っている。


 ただ、それは、僕がこうなっている理由を含めて考えれば、間違っていることにおのずと気づいてくるだろう。


 友人はいなくてもいい。


 いなくても、平気だ。


 心のどこかで、その定型文を反芻はんすうして、それによって僕は僕を支えていたのかもしれない。




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