小話 21世紀の夢
懐かしい街。
赤い瓦の鶴ヶ城。
見慣れたものより、ひとまわり位小さい。
あんな所に建物あったかな?
本屋だった場所が、駐車場になっている。
大型スーパーの看板の色が違う。
あそこ、国道に抜けるバイパスが通ったんだ。
かつて暮らしたその街は、わずかにその姿を変えている。
しばらくの間、ふわふわと風に乗り、まちの上空を旋回しながら景色を楽しんだ。
気づくと。
殺風景な白い部屋の中にいた。
一体ここは何処だろう。
椅子に女の人が座ってる。
…… 母さん?
なんだか痩せたね。
どうしたの?
そんなに辛そうなのはなぜ?
「いつまで経っても目覚めてくれないね。……のんびり寝ている間に色々変わっちゃたよ。まちの風景も私達も。……大好きだったおじいちゃんも、死んじゃったんだよ。ねぇ、いつかは起きてくれるのかな? ——お兄ちゃん。」
そのひとが見つめる先には、簡素なベットがあり、そこには、もう若くはない男が寝かされていた。
その男の顔は……… 。
なんだろうコレは。
怖い。怖いよ。
助けて。
誰か。
・
・
・
温もりが頬に落ちる。
「…… ユイ。」
私の心を温めてくれる声。
目を開くと、潤んだ瞳が近くにあった。
「……颯介、呼んでくれた? どうしたの? 泣いていたの?」
手を伸ばして、颯介の頬に触れる。私の手が冷たいのか、いつもは体温の低い彼に、今日はぬくもりを感じる。
その手を、颯介の両手が包んだ。
「だって、もう会えないかと思って……」
颯介はそう言って、きゅっと目を瞑る。目の端から、涙の雫がするりと流れ落ちた。
「ごめんね、心配かけて。何だかすっごく怖い夢を見てて、中々抜け出せなかった。」
そう言って、起きようとしたけれど、びっくりするくらい身体に力が入らなくて、颯介に支えられながらゆっくり起きあがった。
私が体を起こしても、颯介は私の手を離さない。私の存在を確かめるように、きゅっと握っている。
「気分はどう? 汗をかいていたみたいだから、何か飲む?」
後ろから、七重が声をかけてきた。
「うん。ありがとう、確かに喉はカラカラかも。」
そう答えると、七重は柔和な笑みを浮かべ、テキパキと準備を整えた。
「はい、湯冷しだよ。……ちょっと颯介、いい加減離れなよ! ユイが飲めないだろ。」
七重に叱られ、颯介は名残惜しそうにゆっくり手を離した。
「はぁ……しかしほっとした。あのままユイが目覚めなかったら、颯介がおかしくなって、せっかく助かった世界を滅ぼして回る所だったかもしれないからね。」
ため息交じりに七重が言う。
「まさか。そんな事にはなりませんよ。」
颯介は眉を顰めて否定した。
「どうだか。」
七重は、不審そうな表情で腕を組んだ。
「そういえば私って、どの位寝てたの?」
「六条とやり合ったあと、直ぐに昏倒したので、3日です。」
「なんだ、良かった。私ね、昔7日間起きなかったことあるんだよ。その時に比べたら……」
大した事無いじゃないって言おうとしたら……。
「もうっ、ユイ! 無理しちゃダメだから。」
七重が厳しい声をあげた。
「あのね、お医者様の見立てでは、取り敢えずお腹の子は大丈夫だって言うけど。しばらくは絶対安静にしてなよ。」
言い聞かせるように、七重の右目がジッと私を見つめた。
「七重ちゃん? え? えっ⁉︎」
私は、そっと下腹に触れた。
「うん。おめでとう。」
七重はにっこり頷いた。
バッと颯介の顔を見る。
「その……、ユイ……妊娠しています。」
颯介はそう言うと、はにかみと喜び、そして……深い憂いを帯びた笑みを浮かべ、私の体を抱きしめた。
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