9  ユイの結婚 ~可愛いお嫁さん~

 ぽかぽかして気持ちのいい一日だった。

 絶好のお昼寝日和だったけれど、今日は眠っちゃいられなかった。

 なんてったって、ユイの婚礼の日だからね。

 側にいてしっかり見届けなきゃ。


 早苗にピカピカに磨かれて、髪を整え、化粧を施されていくユイ。

「ううっ、早苗。変じゃない?」

 慣れない行程にちょっと不安そうだ。

「ユイ様、大丈夫です。私の腕を信じて下さい。」

 早苗は、実に楽しそうにユイを飾っている。

「白粉、厚すぎない?」

「これでも薄い位です。はい、紅を指しますよ。」


 おおっ。早苗、いい仕事しているよ。

「にゃ〜ん。」

 思わず声をあげると、

「ええっ、ミケに笑われたよ! 本当に大丈夫⁉︎ 皆んな引いたりしない?」

 ユイが動揺した。

 

「ユイ様、ご安心下さい。とってもお綺麗ですよ。」

 手伝いに来ている他の女の人達が、クスクス笑った。


 そうだよ、安心しなよ。

 例え、ユイがどんな姿だとしても、絶対に颯介は喜ぶからさ。



 夜の帳が降りて、婚礼が始まった。


 白無垢に身を包んだユイは、清楚な可愛らしさに溢れている。

 ちょっと恥ずかしそうに、でも愛おしげに颯介を見つめている。とても幸せそうだ。

 

 白無垢は、鳳凰文の赤ふき。

 蝶や花も刺繍されていて、華やかでちょっと格好いい所もユイに似合っている。 

 それに、鳳凰は火の鳥。

 懐剣袋や末広などの小物も赤にしていたりして、そこに愛を感じるよね。

 颯介、嬉しいだろうな。


 ほら。隣の颯介は、もう蕩けそうな笑みを浮かべて。

 ああもう空気が甘い、甘い。


『サキ、泣いてもいいと思うよ。』

 隣で、終始目を潤ませるサキに言うと、

『ミケさん。義勝殿があんなですもの。私までみっともなくて泣けませんわ。』

 嬉しそうにくすっと笑った。


「ユイ、ユイィィ。綺麗だ…… 本当に綺麗だ。弓子…… 見てるか。儂はやったぞ。」

 ブツブツ言いながらボロボロ泣き続ける義勝は、威厳の欠片もない有り様だったけれど、娘溺愛ぶりは有名だから、みんなそれすら温かく見守ってる。


 早苗は義勝並みにぼろ泣きだ。


 あ、颯介のお兄さんも、目を押さえっぱなしだ。

 手巾がびしょ濡れだよ。

 

 梅子は、ユイと颯介を交互に見て、満足そうに微笑んでいる。


 あれ、意外だな。七重もぐずぐず泣いているよ。


 忠道は、ほんの少し…… 少しだけ、寂しさの混じった笑みを浮かべている。

 僕は正直、君でもいいなって思っていたんだけれど。ユイの心は颯介が持って行っちゃったね。

 自室で僕の肉球をムニムニしながら、颯介の事を語るユイは可愛いんだっけ。

 残念、君の入る隙はなかったにゃあ。



 みんなが二人の幸せを祈っている。

 あたたかい婚礼だ。


 僕は、ここに立ち会えただけでも、猫又になって良かったと思うよ。


 ユミ、ユイがもうお嫁さんになるんだよ。

 とっても可愛いお嫁さんだ。


 もしも、僕が涙を流せたなら……ふふっ、今頃ぐちゃぐちゃに泣いてるかもね。

 

 結婚おめでとう、ユイ!



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