第29話 彼について


諦めたように笑った。

私にはそう見えた。

儚げに、絶望的に、

それでも確かに

彼は笑った。


「後悔してない?」

私は聞いた。

彼は何時だって決断を迷わない。

真っ直ぐに前を向いているように見えた。

「後悔だらけさ」

俯くことさえできやしない。

彼はそう言って、暗い瞳を私に向けた。


迷う暇があるくらいなら

僕は一生寝ていたいね。


「君こそ」


私はすぐに否定する。

後悔なんてするわけがない。

彼の側を離れぬように

彼を見失わないように

今まで目を凝らしてきたのに。


これまでも、これからも

私は彼を放す気はない。


「君を壊した責任を取らねば」


彼はそう言ってどさりと倒れた。

力無くぐたりと投げ出された腕が白い。

閉じられた瞳の中に淀んだ闇が眠っている。


「私、今とても幸せ」


そう呟くと彼は小さな声でよかった、

と鳴いた。

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