第5話 吐きたい


吐きたい。

すべてを真白に胃の中を空っぽに。

全部全部全部なくしてしまいたい。


人の言葉が耳に入る。軽い冗談、噂、悪口。吐きたい。

人の視線を感じ取る。異質な空気、逸らされる視線。吐きたい。

人のにおいが充満する。汗のにおい香水のにおい。吐きたい。

その中にいる自分の言葉視線におい。吐きたい吐きたい吐きたい。


すべてを吐いてしまって、すべてが空っぽになって、自分が空っぽになって。

白になるとは限らない、黒に染まるとも限らない。灰色に混ざるのが妥当な線で。


理解できない。同意できない。わけが分からないうちにどんどんと流れていく。

人の流れ。

理解できるはずがない。理解できるはずはない。理解できたと思えない。


取り残されて、追い抜かされて、追いつけない。息が切れても、汗や涙が流れても。

曲がり角を曲がったその背中は、すでにはるか遠くにある。

自覚する。ちっぽけで、情けない、醜くて、卑怯。


白と黒と赤と青が。

混ざりに混ざって、ぐちゃぐちゃと踏み潰されて、かき混ぜられて、

ねじられて、なじられて、形作り直された結果が、こんなものだ!


吐きたい。


吐きたい吐きたい吐きたい。

吐いてどうなろうというものではない。

自分の中にある、自分でも理解できない部分が、

酷く醜く恐ろしいものであることに。


自分は恐怖している。吐きたい。

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