リュミエールとのデート前編

 その日、トールとリュミは公園の噴水前で待ち合わせをしていた。


「ごめん。待った?」


 私服に着替えたトールはリュミと落ち合う。リュミは白いワンピースを着ていた。

 今日の気温は温かい為にそれなりに薄着だった。


「いいえ、今来たところですわ」


 リュミはそう言いつつ、トールの腕を取る。定番の台詞であり言わばお約束でもあった。

腕を取るだけならまだいい。だが、必要以上に身体を密着させてくる。

「ちょ、ちょっとリュミ。皆見てる」


 リュミは文句のない美少女である。姉二人、特にクレアあたりと比べると発育が未熟ではあるが、それでも整った顔達は王族の血筋によるものだろう。父の顔は見ていないが母ミリアは美人だった為、その遺伝子を継いでいるのだ。当然、こんな美少女と必要以上にいちゃついていれば注目を集めるし、妬ましさから反感を買う事もあるだろう。しかし、リュミはそんな事は気にしていない様子だった。


「別に誰も気にしてないですわよ。よくいるただのラブラブのカップルだと思うだけですわ」


 リュミは腕に胸を当ててくる。そんなにふくよかではないが、それでも柔らかかった。女性の身体の温かみが伝わってくる。

 しかし、想像以上にやわらかかった。何かがおかしいように感じる。ブラジャーをしていればこうまで柔らかくは感じないのではないか。

 気のせいか。

 その時はまだトールはその事に対して特に言及はしなかった。


 一方、その頃、その様子を物影より伺う三人の影がいた。当然のようにリュミの兄姉三人である。彼、彼女等は心配、という気持ちもあると同時に妬ましさややっかみなどの感情も含まれ、二人のデート、言わば逢い引きを覗き見るというストーキング行為に駆り出されたのである。


「な、なによリュミの奴。あんなにトールにくっついてベタベタして」フィルは憤る。

「フィルちゃん。お姉さんなのに大人の余裕がないわよ」


そう言いつつ、クレアは近くの木を拳で殴り倒した。どーんと音がする。


「まるで発情期の雌猫のように。お兄ちゃんは寂しいよ。リュミも立派に発情期を迎えたんだね。あの小さかったリュミが。ううっ」


 ランスは涙を流している。




 それから二人が来た場所は大型のショッピングモールだった。割と何でもある便利な施設であり、特に何も考えずに場当たり的なデートプランでも愉しめる為、何も考えていないカップルにはうってつけのデートスポットでもあった。

 二人はアイスクリーム屋でアイスを食べる事にした。そこら辺のベンチで休憩をする事になる。遊びに来ているのに休憩とはどういうことか。確かにデートというのは緊張するしかえって疲れるかもしれないが。


「はい。トール様」

「ん?」

「あーん」


 よくある定番のシチュエーションだった。リュミはソフトクリームをトールに食べさせようとする。


「い、いや。いいよ。そんな事しなくて。自分で食べられるし」

「まあ、遠慮しなくていいんですわよ」


 リュミは言う。遠慮ではないのだが。そう思うトールではあったが無碍に扱うのも気が引けた。


「あーん……」


 リュミはトールの口にソフトクリームを運ぶ。


「まあ、可愛い。鳩に餌をあげているみたいですわ」


 リュミは喜ぶ。

 その例えはあまりよろしくない。みすぼらしく餌を拾っている鳩のようだ。


「はい、あーん」

「あーん」


 何となく自分が餌付けされているペットのように思えた。それか授乳されている赤子か。食べ物くらい自分で食べられるというのに。巷のカップルは何が楽しいのやら。


「あっ」 


 べちゃ。

 調子の乗って食べさせていたらソフトクリークが零れてトールの服に落ちた。


「す、すみません、トール様。今、拭くものを持って参りますわ」


 リュミはそう言って、濡れたハンカチーフを持ってきた。そしてトールの服を拭き始める。 なんだ? とトールは思った。

 リュミはトールの身体を拭く時、前屈みになった。前屈みになると、胸と服あたりに空間ができる。ブラジャーを着ていればそれが見える事になる。俗に言うブラチラであり、パンチラほどではないが、男子からすれば嬉しいチラリズムの瞬間である。日常の中のご褒美と言っても良い。だがリュミにはそれが見えなかった。代わりに谷間が見えた。平坦というわけではなく、それなりにはあるが。若干控えめな胸である。胸が控えめであると当然、そこに出来る空間が大きかった。胸が殆ど見えていて、辛うじて尖端部分だけは布地が引っかかっていて見えなかった。

 なぜそうなるのか。答えは明白だった。


「リュミ、ちょっといい?」

「はい。なんですの?」


 トールは舌打ちをするようにリュミに言う。


「ブラジャーつけてる?」


「え? 何んですの? そんなの当たり前のように」


 リュミは確認をする。自分の身体を触った、その上で胸元を自分で開き、覗き見る。


「わ、忘れてましたわ。下着を身につけるの」

「なんでそんな事忘れるんだ!」

「それはーー」


 リュミは思い返してみる。


「トール様とのデートを楽しみにしていて、白の勝負下着にするか、黒の勝負下着にするか、はたまた、赤の勝負下着にするか、あるいは青の勝負下着か、いやいや、やっぱり緑の勝負下着か、という事で延々悩み続けていたら、いつの間にか朝を迎えていて、慌ててワンピースだけを着て家を出て行ったのですわ」


 リュミはそう言う。普通気づきそうなものだが。それだけ慌てていたという事か。あるいは狙っていたのだろう。そう思う方が自然だ。確かにトールはハラハラしている。恋のドキドキではないかもしれないが。ともかく心臓もドキドキしている。狙っていたとしたらある意味狙い通りだ。


「リュミ。何色でもいい。だが精神安静上下着は身につけてくれ。それで一応、聞いておくが、下(パンツ)もそうなのか?」

「はい。下(パンツ)も履き忘れてきましたわ」

「忘れるな。大事なものを!」

「そういえば、なんかすーすーすると思っていましたわ」

「せめてもっと前から気づこうな」

「トール様とのデートで胸が一杯で気づきませんでしたの」


 顔を赤くしてリュミは言う。

 フィルは前ノーパンで登校してきたが、リュミはノーブラな上にノーパンだから余計に酷い。痴女感が半端なくする。例え過失で忘れてきたのだとしても。ノーパン王女姉妹だ。流石にフィルはノーブラではなかっただろうけど。

 そんな時だった。突如風が吹いた。突風のような強い風が吹く。


「きゃっ!」


 リュミはスカートを抑える。


「いやらしい風ですわ」


 いやらしいのは風ではなくお前だろうと突っ込みたいところだった。

 ドキドキする。興奮ではなく心配で。なぜこうまで心配をしなければならないのだ。彼女の事で。


「リュミ、一緒に下着を買いに行こう」

「ええ。いいですけど。とういうか当然ですわね」


 リュミは言う。当然のようにショッピングモールである。婦人服売り場はあるし、さらには下着専門のランジェリーショップまであるのだ。

 割と何でも手に入る。下着がないわけがなかった。その点もやはり便利な施設であった。


「そうだ。せっかくだから、トール様の好みをお聞きしたいですわ」


 リュミは言う。


「え?」

「一緒に行きましょう」


 リュミに連れられ、トールもまたランジェリーショップに入っていった。


 一方その頃。物影からその光景を見ていたフィル達三人がいた。


「なんなのよ、あの娘。トールにソフトクリーム食べさせて。あれじゃ本当の恋人みたいじゃないの」


 フィルは妬いていた。


「少なくとも周りはそう思っているでしょうねぇ」


 クレアは頭を悩ませる。


「あっ、ソフトクリームを落とした」


 ランスが言う。


「随分慌てているようだね。服を拭き始めた」

「なんでしょうか。移動し始めましたよ。私達も移動しましょう」


 そう、クレアは言う。


「なんでランジェリーショップに」と、フィル。

「わからない。ただどうやら下着を買いに来た事だけは間違いないようだ」


 ランスは言う。

 まさか、兄姉三人にも妹がノーパンでノーブラでこの場に来ているとは考えもしなかったようだ。

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