デートのおねだり
魔法学院との交流戦の話になる。交流戦というと、何となく交流に重きを置いているように感じられるが実際のところはガチの試合である。死合といっても過言ではないかもしれない。
剣士相手との対戦とは根本的に異なるがトールは魔法を使えない正確に言えば使い物にならない為、魔法を使う事ができるランスが魔法使い役をやる事になる。
魔法使い相手は剣士と異なり、根本的に戦闘方法が異なるからだ。
「いいかい? 魔法と武器の根本的な違いは魔法はMPを消費するという事になる。これはHPとは異なり、魔法専用に保管庫みたいなものだ。これはHPとは別に保管庫が存在していて、その限りにおいて魔法を使用する事ができる。魔法の良いところは射程距離が長いところと範囲攻撃が可能だという事、それから攻撃、守り、癒やしなど多様性に富んでいるところ。通常剣士は個別攻撃しかできないし、さらには汎用性からは皆無だからね。ただ敵を攻撃するしかない。ただその代わりMP消費がないから、魔力切れを起こすことはない。魔法使いはMPを消費するし、MPを消費しきった後の通常戦闘は大抵の場合弱い」
そう、ランスは講義をする。
「はぁ……」
リュミは呟く。
「魔法使いを相手にした場合の有効な戦闘は大体二つだ。ひとつはMP切れを起こさせて通常戦闘に意向する事。次に有効なのが通常攻撃の範囲内に近づく事。奇襲をしたりするのが有効だろうね。他にも方法があると言えばあるけど、弓を使ったりして自分自身のリーチを伸ばす事も可能だろうけど、その武器に精通していないといけないから現実的ではないね」
ランスは言う。
「それじゃあ、実際に闘ってみようか。リュミエール」
「はい」
「僕と闘ってみよう。僕は剣を使わないから、かかってきて」
「はい」
「ただその距離のままじゃない。10歩は後ろに下がって」
「はい。わかりましたわ」
二人は大体20メートルは離れる。
「てやああああああああああああああああああああああああああ!」
リュミは必死に走ってランスに襲いかかる。
「火炎魔法(フレイム)」
大体10メートル程度のところでランスは魔法を放った。炎がリュミを襲う。
「いやああああああああああああ! わたくしの髪が! 美しい髪が! 水を! 早く水を!」
相当に手加減した炎だったが、リュミの髪に引火した。
リュミは転げ回る。
フィルに水をかけられる。ばさっとバケツで。何とか鎮火できた。
「妹の髪に火をつけるとは何事ですか! お兄様!」
「ごめんごめん。けど敵もこうして攻撃してくるってわけだ。もし怪我をしても僕は回復魔法も使えるから治してあげるよ。まあMPの貯蔵量は本職の魔法使いほどないし、威力もそんなに高くないんだ。魔法剣士のキャパシティは両取りしている分そんなに高くないんだ。天才にも明確な限界ってものが存在しているんだよ」
「い、いくら本当の天才でも自分で天才っていうの、恥ずかしくならないのかしら」
リュミは怪訝そうに言った。
「聞こえているよリュミ」
「何でもないですわ! お兄様」
「ともかく、実感して欲しかったんだ。魔法の射程距離を。クレアの槍は長いけどそれはせいぜいリーチは2メートル。魔法だったら10メートル。本職だったらもっと長いかもしれない。100メートルとかでも射程圏内の場合もある」
「そんなに長いんですの。走っても20秒くらいかかりそうですわ」と、リュミ。
「随分と鈍足なんだね、リュミは」
普通女子でも15秒くらいでは走れそうなものだが。
「つまりそれだけ敵に一方的に攻撃される距離が長いって事を覚えて置いてくれ。それじゃあ、練習を続けよう」
「「「はい」」」
四人は言った。
「疲れましたわ」
訓練の最中、リュミはへばっていた。
「がんばって、リュミ」
トールは言う。
「わたくし、もう頑張れませんわ。こんな泥臭い訓練、わたくしには合いませんもの」
「あたし達には合うっていうの?」
姉であるフィルの言葉をリュミは無視する。
「そうですわ!」
トールの手を握る。
「トール様、わたくし、訓練を頑張る代わりにご褒美が欲しいんですの」
「ご褒美って?」
「今度の休みの日、わたくしと一緒にデートして欲しいんですわ」
「デート?」
「二人きりで一緒に遊びに行く事です。逢い引きとも言いますわ」
「なっ!?」
フィルは表情を引きつらせる。クレアもピクピクと顔は笑っているがどこか引きつった笑顔だった。リュミは周りの事を考えないきらいがある。王族の習慣かもしれない。
「別にいいよ。それでリュミががんばれるなら」
トールはあっさり了承する。
「えっ!? 本当にいいんですの?」
「えっ!?」
フィルはリュミ以上に驚いた表情になる。クレアの表情がさらにひきつる。
「遊びに行く位別に良いよ。休みの日は僕も暇してるから」
「じゃ、じゃあ。今度の休みの日、絶対ですわよ」
そう、リュミは強い言葉で言う。
「あっうん。ただ、もう疲れたとか、我が儘な事言わないでよリュミ。一緒に遊びに行くんだから」
恐らくはトールにその行いに大した意味を抱いていないのだろう。そう、単に友達と一緒に遊びに行くだけの事のような印象を抱いていただけだった。
ただ普通の女子にとっては男の子と二人で出かける所謂デートは相当な恋仲でなければ行わない特別なイベントだったのだ。
相当に意識の乖離が存在していた。
「わ、わかりましたわ。トール様」
「くっ、くう!」
リュミは表情を輝かせ、フィルは悔しそうな表情になり、クレアは殺気すら放つような表情になっていた。
「やれやれ」
ランスは呟く。別に誰とトールがくっついてもいい。最終的にはランスからすれば弟になってくれればそれでいいのだから。ただそれで姉妹の関係にヒビが入るような事はやめて欲しかった。
いっその事三人まとめて、っていうのはいかないのか。王族ならば重婚も認められるだろう。一夫一妻制の法律があってもそれを変えればいいだけの事で。
ただそういうわけにもいかないかもしれない。何せよ好きな人を独占したいものだろう。浮気を許せない女性は多いはずだ。
こうして訓練を行っていく。そして地獄のような、あくまでリュミにとってだが訓練を終えて、約束の休日がやってきた。
日曜日の事だ。
トールとリュミのデートの日がやってきたのである。
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