魔法学院との交流戦


「どうしたのですか? 学院長」


 ある日の事だった。それは王位継承戦ーーとはいえ王位継承戦は実際のところは行われなかったに等しい。その前の魔人ベリアルとの戦闘が最大の関門であった。

 トール達は王国の危機を未然に防いだのである。称賛に値する行いだとは思うがその情報は重要なものである為、決して外部に漏れる事はなかった。


「うむ」


 その日、トールはヴィル学院長に呼び出しを喰らっていた。


「僕に何の用でしょう?」

「トール君。君はもうヤったのか?」

「ヤったのか。質問の意味がわかりませんが」


 何をやったというのか。何となく卑猥な意味に聞こえるが。


「セックスだよ。セックス。あの王女三姉妹がいるだろう。セックスをしたのかと聞いているんだ」


 オブラートに包まなすぎるその発言は流石のトールでも誤解のしようもなかった。


「してません!」


 顔を真っ赤にして否定する。


「そうか。まだ誰とも付き合ってないのか? あるいは付き合ってるけどセックスまではいってないのか。ABCでどの段階だ?」


 ABCとはまた古くさい事を言う。


「誰とも付き合ってないですし。勿論キスもしてません」

「そうか」

「その質問にはどういう意図があるのですか?」

「意図などない。聞いておきたかったというだけだ。ちなみにもしセックスをしていたと答えたら不純異性交遊で退学にしていたところだよ」

「重すぎませんか?」

「冗談だ。だが、君にはまだ女は早すぎる。しばらく童貞でいたまえ。女に狂えば剣の道が疎かになるだろう」

「経験があるのですか?」

「昔な。女に狂ったが故に剣を鈍らせた天才がいるんだよ。惜しい逸材だった」


 遠い目をするヴィル学院長。


「無論、私の事だが」

「そこら辺普通ぼかしませんか?」

「私は隠し事が嫌いでね。生徒とは常に包み隠さず話せるようなフラットな関係でいたいんだよ」


 ヴィル学院長は言う。だが包み隠さず話しているのは自分だけではないかと思うが。


「今日君を呼び出した理由は他でもない。魔法学院との交流戦の事だよ」

「交流戦?」

「エルテア王国にあるヒューリッツ魔法学院。恐らくは君が退学になった魔法学院があるとは思うが、そことの交流戦を行うようになってね。無論、戦争というのは剣士や戦士とばかり闘うわけではないのは君もわかるだろう。かつてこの地を席巻していた魔族も当然のように魔法を使ってくる。そういった相手との戦闘も当然慣れておかなければならないし、経験しておかなければならない事なんだよ」


 その魔法学院の名にトールは表情を曇らせる。あまり聞きたくない名前だったからだ。


「退学したという事でバツが悪かったり、もしかしたら顔を会わせたくない面子がいるかもしれない。しかし君はランスロット君を倒した事で名実共に我が剣士学院ジルフリートにおける最強の剣士と認められた事になる。当然のように交流戦の時には出場する義務があるんだよ。強きものは義務を持つ。過去のトラウマに向き合うのは辛いかもしれないが、それもまた君に課せられた試練だと私は思うよ」


 普段はちゃらけたような事を言うヴィル学院長だが、仮にも、本人に仮にもと言うと間違いなく怒るだろうが、剣聖の称号を持つ剣の達人である。なかなか含蓄のある深い事を言うし、こちらの内情を的確に察してくる。

 逃げ出したくなるようなトラウマは誰にでもある。だが、そのトラウマに向き合わなければ成長する事はできないのだろう。


「わかっています。別に出場を辞退したりはしません」

「それを聞いて安心したよ」

「それで、具体的には交流戦とはどういう形式なのですか?」

「剣爛武闘大会があっただろう。あれは単純な1対1だった。だが、普通戦争というのは1対1で行うわけがない。複数人で闘うだろう。剣爛武闘大会が個の強さを競そうものだとしたら交流戦は集団の強さを競うものだ。5対5の集団戦形式で行う」

「5体5。誰が出るんですか?」

「君の他には王族の四人だよ。私が選抜したが、やはり実力順で5人選ぶとそうなる。君もよく知っている連中の方が楽だろう」

「それはありがたいといえばありがたいですが。場所はどこでやるんです」

「こちらがヒューリッツ魔法学院まで出向く事になっている。そこに実戦的な闘技ステージがあるらしく、そこで行う手筈になっている。流石は魔法学院だ。便利な施設を持っているようだ。もっとも、元在校生である君は私よりも詳しく知っているかもしれないが」


 魔法学院には特殊な設備がある。超常的な力により作られた特殊ステージを用意する事も容易だ。平野だけではない、森林や砂漠、水辺、さらには火山地帯など豊富に選択する事もできるだろう。戦場において地形的な有利不利は当然のように存在する。遮蔽物が多ければ特に魔法使いに有利である。逆にコロセウムみたいななんの障害物もない平坦なステージは剣士に有利である事は言うまでもなかった。


「最後の質問ですが、相手は誰が出てくるんですか?」

 

トールの質問に、ヴィル学院長は紙のリストに目を通す。

「まだ不確定な事ではあるが、一人だけは決まっているようだ。トール君のご兄弟だろう。性が一緒だよ。カール・アルカード。いの一番に名前が決まっていた事から、君と同じで魔法学院は彼にも自信を持っているのだろう」


 ヴィル学院長はそう言った。

「ええ。弟です。魔法学院きっての天才だって言われていましたから、当然だとは思います」

「そうか。色々複雑な関係だとは思うが、弟だからと言って手を抜かないようにな」

「僕は抜きません。それに弟もそういう事は関係ないと思います」

 

むしろ兄を邪魔者だと思っていたカールからすれば、かなり苛烈に責めてくる可能性まであった。


「交流戦の開催は一ヶ月後だ。それまで五人で集まってチーム練習をしておくように。もっとも魔法学院の特殊ステージのように色々な地形での練習はできないとは思うが、何もしないよりはマシだろう。放課後が潰れるのは些か可哀想ではあるが」


 ヴィル学院長はそう言っていた。


「いえ、勝つためなら仕方ないですよ」

「そうか。ならいいのだが。我が校の威信をかけた戦いだ。君たちの健闘を祈っているよ」


 そうヴィル学院長は言った。

 翌日からの事だった。放課後に五人で集まってチーム戦の練習をする事になる。

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