ベリアルとの闘いそして決着へ

「行くぜ」


 魔人ベリアルは浮遊している。恐らくは飛行系の魔法を使っているのだろうと思われた。

 各々は武器を構える。

 フィルは剣リュミも剣クレアは槍であり、トールは刀だ。

 王国の命運をかけた一戦が今始まろうとしていた。


「はあああああああああああああああああああああああ!」


 手のひらに集まった暗黒の気のようなものを魔人ベリアルは放った。

 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 四人は攻撃を避けたが、代わりに大理石で出来たような豪華なテーブルが粉砕された。

 一体、いくらするんだろうか。金貨数枚では収まらなさそうだった。


「勿体ない、高そうなテーブルが」


 トールは言った。


「後で庶民の税金をあげればいいのよ」


 フィルは平然と言った。


「なんたる傲慢王族。後で平民が反乱を起こしても知りませんわよ」


 とリュミは言う。


「というかそれどころじゃなくてもっと壊されそう。ここで食い止めなければ国中崩壊してしまうわ」


 そうクレアは言う。


「くっくっく! 恐怖のあまり何もできねぇか! 魔王様が復活したらこれくらいでは済まなねぇからな!」


「くっ! ランスの身体と声で言うな!」

 

 クレアは槍で襲う。


「おっと!」


 しかし、魔人ベリアルは恐らくは転移魔法が使えるのだろう。

 テレポーテーションした。


「遅えよ!」

「きゃあっ!」

 

 背後に現れた魔人ベリアルは蹴りを見舞う。

 蹴りを食らったクレアは壁に叩きつけられた。


「こいつ……武器も持ってないのにランス君より強い」


「当たり前だろ。大体人間っていうのは自分が壊れないようにどうしてもセーブして闘っているもんなんだ。100%の力のうち60%程度しか出せない。だから火事場の馬鹿力ってものが出せるんだが。俺はこいつの身体が壊れようが関係ねぇ。何せ俺の身体じゃねぇんだからな」


 そう魔人ベリアルは言う。


「こいつ。ランス君の身体だからって好き放題するつもりなのね」


 クレアは言う。


「そうさ。だが、こいつの身体は中々に上等でな。早々スペアなんて見つからないだろうから、大切に扱わせて貰うぜ」

「はあああああああああああああああああああああああああ!」


 フィルは剣。燃える名剣フランベルジュを持って魔人ベリアルに襲いかかる。


「……遅えよ」


 魔人ベリアルは素手を持ってフィルの攻撃を受け止めた。


「なっ!? 素手で」

「当たり前だろ。武器なんていうのは脆弱な人間が何とか闘う為に作られたものだ。生まれつき強者である魔人がそんなものに頼る必要性はない」

「くっ!」

「どいてろっ!」

「きゃあっ!」


 姉妹揃って同じような声の悲鳴をあげて壁に激突する。


「てめぇ等のような雑魚に用はねぇんだよ。俺の相手になりそうなのはそこの男だけだからな」


 魔人ベリアルは笑う。


「くっ」

 

 リュミは表情を曇らせる。末女である彼女は戦闘能力において姉二人より劣る。それ故に姉二人が無残にけちらされた以上、闘っても無駄になる可能性が高かった。


「下がってろ。リュミエール」

「トール様」


「そうそう。お前と闘りたかったんだ。前座にもならねぇ連中は引っ込んでな」


 トールは刀を構える。

「タケミカヅチ」

 そして振り下ろす。


「二の型。氷結斬!」


 振り下ろされた斬撃は水属性の波状攻撃である。氷の斬撃がソニックウェーブのように襲いかかる。


「ふん。そんなもので」


 魔人ベリアルは魔力障壁(マジックシールド)でそれを防いだ。


「それで本命は」

「はあああああああああああああああああああああ!」


 上方からの斬撃。

 それも魔人ベリアルは手のひらで受け止めた。


「甘いんだよっ!」


 トールは弾き飛ばされる。トールは受け身を取って着地した。


「んっ?」


 ベリアルは手のひらを見やる。血が滴っていた。フィルの攻撃では傷一つつかなかったのに。


「やっぱりひと味違うなぁ。お前は。侮れない」


 ベリアルは笑い。血を舐めて拭った。


「二の型」


 トールは刀を地面に突き立てる。水蒸気が発生する。そして水蒸気が周囲を包んだ。


「あれは私の」

 

 クレアは驚く。


「パクりましたわね」

 

 リュミは言う。


「いや別にいいんだけどね。著作権とかあるわけでもなし」


 クレアは言った。


「ふーん! そうか……どこから来るかな」


 ベリアルは笑う。


「はああああああああああああああああああああ!」


 正面から刀を持ったトールが襲いかかる。


「……わかってるぜ。そっちがダミーで本命は! こっち!」


 後ろからもトールが襲いかかる。前から来ているのは作り出された残像によるダミーだろう。ベリアルは後ろのトールを蹴った。しかし、手応えがない。


「な、馬鹿なっ!」

「はああああああああああああああああああっ!」

 

 ザシュッ!

 トールの刀がベリアルの腹部に突き刺さる。


「くっふっふっふっふっふ! そういう事か。殺気の込められたダミーは後ろの方の奴だったのか」


 トールの攻撃を喰らい、魔人ベリアルは致命傷を負ったはずだ。とはいえ実際のところはランスの身体がダメージを負ったとだけ言えるのかもしれない。

 だからなのだろう。ベリアルは追い詰められているようではあるが、その声にはまだ余裕があった。


「へっへっへっへ! 良い身体があったな! こいつより良い身体があるなんてなっ!」

 

 ベリアルは笑う。


「危ない! トール!」

「もう遅えよ! チェンジ!」


 ベリアルは魔法を発動する。黒い霧がランスの身体からトールに放たれる。

 ドサッ。

 元に戻ったランスは地面に崩れ落ちる。


「ランス兄!」

「お兄様!」

「ランス君」


 三人が駆け寄る。


「すぐに手当をしないと」

「それより、トール君が!」


 三人は慌てる。


 ベリアルの精神体はトールの精神に侵入していく。この真っ黒い空間は言わばトールの精神世界だった。


「魂の根源は、っと。おっと、ここだ」


 ベリアルの精神体はトールの魂を見つけた。輝かしい光を放ちし、魂の光。


「こいつをぶっ壊す!」


 ベリアルはトールの魂の光を壊し、支配権を得ようとする。


「なっ!? なにっ!」


 しかし、トールの魂の根源をベリアルは破壊する事ができなかった。


「ば、馬鹿な! こんな強い魂を! 俺は見た事がない! こんな事一度足りとも!」


 しかし、思い返せばベリアルはひとつだけ心当たりがあった。


 それは今より2000年前の事であった。魔王と勇者の闘い。その時勇者が発していた魂の根源の強さ、それと同じものを感じていた。


「……そんなああああああああああああああああ! 馬鹿なあああああああああああああああああああああああああ!」


 ベリアルの精神体はトールの魂の光の強さに飲み込まれ、消失していった。


「……はぁ、はぁ、はぁ」

 

 トールは肩で息をする。


「……大丈夫なの?」


 フィルは訊く。


「さあ、私に言われましても」とリュミ。


「攻撃してこないわね……」とクレア。

「攻撃されてきても困るけど」

「それもそうね」


「あっ、動きましたわ」


 トールは目を開ける。その目の色に闇の波動は感じなかった。


「目の色も髪の色も変わってませんわ。お兄様は変わりましたのに」とリュミ。

「トール君、大丈夫なの?」

「え、ええっ。何とか」

 

トールは答える。


「でも、魔人はどこにいったの?」

「あいつは僕の中で消滅しました」


「え? なんで?」

「それを訊かれても俺にはわかりません。ただ魔人の力は感じなくなりました」


 そう、トールは答える。


「よくわからないけどもう危ない事がないならどうでもいいんじゃない」そうフィルは言う。「フィルお姉様は単細胞過ぎますわ。もう少し原因を考えてもいいんじゃないですの」とリュミは言う。

「考えてわかるの?」

「勿論わかりませんわ」

「じゃあ無駄じゃない」

「それを言われると身も蓋もないですわ」とリュミは嘆く。

「きっと何かトール君には大きな秘密が隠されているのね」そう、クレアは言った。


「まあまあ。さっきから大きな騒音がしていると思ったら、これはなんなのです」


 そう、ミリアの怒鳴り声が聞こえてきた。


「お、お母様! これには重大な理由が! 私達、この国の危機を救ったんですの」

「リュミ立ってただけじゃない。救ったのはトールじゃないの」


 フィルは言う。


「それを言えばお姉様だって壁にうつかって座ってただけじゃないですの」

「あたしは私たちが救ったなんて言ってない」


「あらあら。まあまあ。なんだかよくわからないけどこの国の危機を救ったのね。えらいわ。それにしても早く大工さんを呼ばないとねぇ」


 ズタボロになった部屋を見て、ミリアは嘆いた。

 こうして魔人ベリアルの危機は過ぎ去り、この王国アルドノヴァは一旦の平穏を手に入れたのである。

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