ランスとフィルの闘い後編


 この剣爛武闘会は武器の持ち込みを禁じられていない。そういった意味でお互いに対等の条件ではなかった。装備の格差というものは存在する。その点が以前フィルとトールが鍛錬場で行った試合とは異なる点だった。より実戦形式と言える。実戦はフェアではないのだ。強い武器を手にするのも力であろう。金であったり、地位であったり、運であったり。何もかもが結局は力となる。

 だが、そういった武器による性能差によるハンディキャップは今回に限りはないだろう。

 二人は兄妹であり、境遇はよく似ているのであった。二人が手にしている業物はどちらも名剣の類いであるう。

 ランスが手にしているのは聖属性最高峰の剣である聖剣エクスカリバーであり、フィルが手にしているのは炎属性の名剣フランベルジュである。

 故に差ほど武器によるハンデを両者が背負う事がなかった。結局は両者の力量であろう。無論男女の体格差などはいかんしも難いものがある。いくらスキル(純粋な技術力を指す)で補おうとしても体格や筋力から来る力の差というものは歴然として存在する。

 だがひとたび戦場に立てばそんな事は言ってられないであろう。女だから許してくださいと言っても敵兵が許すはずもない。女である事は不利かもしれなかった、だがそれを言い訳にする事は戦地に立つ戦士として許されない。

 無論剣爛武闘大会に立つ今の状況だってそうである。相手が兄だから、そして自分が妹だからと言って許されるものではないし、手を抜いていいものでもなかった。

 複雑な心境をフィルは抱えつつもランスに斬り掛かる。

 剣と剣が交錯する。甲高い音が闘技場内に響き渡った。

「おおっと! まず先制攻撃をしかけていったのは妹のフィルフィーレ選手! 迷いのない真っ直ぐな攻撃です! そしてそれを悠然と受け止めるのは兄のランスロット選手!」

「やるじゃないか。フィル。今までよりも剣が重いよ」

 ランスはそう感想を言う。だが、その表情にはまだ余裕のようなものが見て取れた。

「けど、まだまだだよ!」

 ランスはフィルをはじき返す。

「くっ」

 弾き飛ばされたフィルは何とか場外に落ちないように着地を取った。別に場外に落ちたからと言ってルール的に負けではないが。相撲的ルールにすると負けなのかもしれない。異世界に相撲があるかは不明であるが。ない事もないか。

 ちなみにこのマッチアップではあるが、幼い頃から幾度となく兄妹間で繰り返されてきたものだ。戦績は言わずもがな。妹(フィル)の全敗である。

「はあああああああああああああああああああ!」

 気合いと共に燃えさかる炎の剣がランスに襲いかかる。

「甘いよ。フィル」

 しかし、炎で剣身を隠したところで、正確に剣を捉えられる。フランベルジュの炎自体には殺傷能力は差ほどない。剣さえ捉える事が出来れば普通の剣と変わらない。燃えているが故に視界をごまかされやすいのだ。

「ちっ」

 舌打ちをする。やはり勝てないのか。才能が違うのか。自分が女だからなのか。兄の言う通りなのか。自分では勝てないから剣士として恥も外聞も捨てて、色仕掛けなんていう女の武器を使った手段しか取れないのか。

「六連斬!」

 一瞬にして六の斬撃を放つ、フィルの言わば必殺技である。高速による斬撃は同時に六つの斬撃を放ったとしか思えない。六つの剣の軌跡がランスに襲いかかる。

 しかし。

「甘いよ」

 言葉と共に放たれたそれよりも速い六つの斬撃がそれを正確に打ち落とした。

「おおっと! 凄まじい攻撃です! しかしランスロット選手! それを正確に打ち落としている!」

 そう、実況のミシェルは言った。

 身体が流れたところに剣先が突きつけられる。首あたりにだ。

「詰みだよフィル」

「くっ」

「お互いの力量差もわからない程、フィルも馬鹿ではないだろう? それに愛する妹を傷つけたくないんだ、僕は。ましてや殺したくもない。無駄な闘いは終わりにしよう」

「殺せばいいじゃないの」

「なんだと……」

「どうせ、あたしに暗殺者をけしかけたのはランス兄でしょう。王位継承戦であたしが邪魔になるかもしれないから。だったらここで殺したって一緒じゃない」

「馬鹿な事を言うな。フィル。僕がそんな事をするわけないだろう。それに僕に妹が殺せるわけがないだろう。チャンバラは終わりだ。頼むから棄権してくれ、フィル」

 ランスはそう言う。

「くっ……」

 フィルは背を向ける。

「降参よ」

 兄の言うとおり棄権をした。

「第一試合、決まりました! 兄妹対決は兄、ランスロット選手の勝利で終わりました!」

 そう、実況のミシェルは言う。

「今回いかがでしたでしょうか? ヴィル学院長」

「フィルフィーレ君も悪い攻撃ではなかったんですが、相手が悪すぎましたね。兄が偉大すぎたという事でしょう。流石は史上最年少の剣聖。ちなみに彼の前は私が史上最年少でした」

「はい。元史上最年少の剣聖ヴィル学院長からでした。以上で第一試合を終わります」

 こうしていくつか試合が進んでいく。

 トールとクレアは難なく二回戦を勝ち抜き、そして三回戦で当たる事になった。 

「さて、続きましては注目カード。王国第一王女であるクレアさんと謎の転校生トールさんとの対決です」

「はい。このトール君ですが、私の旧友である剣聖レイ・クラウディウスから預かった秘蔵っ子です」

「なんと! あの剣聖レイ・クラウディウスから。いやー、それにしても剣聖って一杯出てきますね。世の中に一杯いるんでしょうか。あんまり価値のない称号に感じますね」

「なんだと。貴様、剣聖をディスってんのか!」

「う、嘘です! 冗談です!」

 そう、ミシェルは言った。

「ちなみにですが、第三王女リュミエールさんは第一試合で姉であるクレアドールさんに負けて敗退しています」

「くっ! 私の試合を詳しく実況しないとはどういうつもりですのー!」

 観客席でリュミはそう嘆いた。

「まあ、負け犬の遠吠えですねもはや。いいじゃないですか。負け試合が注目されなくて」

 ミシェルは言う。

「それでは第三試合を始めます。第三試合クレアドールさん対トールさんの試合です」

 二人が登場する。

 第三試合クレアドール対トールの闘いが斬って落とされる事となる。

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