剣爛武闘大会

「クレア様……」

「クレアでいいわ」

「クレアさん」


 上級生を呼び捨てにするのはトールには憚られた。


「まあいいけど。それで、あなたは私の妹達の何なの?」

 

 クレアの疑問は当然だった。トールは何と考えるか悩んだ。


「友達です」

「友達? 友達にしては随分とベタベタしているよね」


 もっともだった。


「フィル、リュミ、この男の人。そういえばあなたは名前なんていうの? 聞いてなかったわ」

「トールです」


 トールは答える。


「そう。トール君。トール君はあなた達にとって何なの?」

「婚約者」とフィル

「婚約者ですわ」とリュミ。

「そう。随分とお互いの意識が乖離しているのね」


 クレアはそう言う。例えるならアイドルを自分の恋人だと思っているファンくらいの乖離である。


「どうしてこんな事になっているのかは完全に理解したわけではないけど。随分と妹達に好かれているようね」

 好かれている。一見そう見えるが実際のところは好意を持たれているというよりは王位継承戦で自分が優位に立つ為に必要だと目されているに過ぎないだろう。その為の武器、道具に過ぎない。


「どうして出会って数日しか経ってなさそうなあなたが妹達の心をそんなに掴んだのかしら」


 クレアは怪訝そうに言う。


「それはトール様が強いからですわ」


 そう、リュミは言う。


「強い。ふーん。この子強いの」

 クレアは言う。

「どれくらい強いかは知らないけど。それで結婚に持ち込んで王位継承戦に参加させようという魂胆だったのね」

 クレアは納得したように言う。

 強いって言ってもなー、とトールは思う。女の子二人負かせて虐めていたようにしか思えず、トールはあまり良い気はしなかった。

「まあ、あなたがどれだけ強いかは私から試さずともすぐにわかるわ。もうすぐこの学院の実技大会が行われるもの。剣爛武闘大会っていうの」

 クレアは言った。剣爛武闘。絢爛舞踏をもじったような言葉だった。

「一体、どういう大会なんですか? 僕は最近転校してきたばかりでこの剣士学院の事をよくわかっていないんです」

「何でもありの武術大会よ。当然のように武器の使用を可能。魔法を使っても良い。そして何より、学年の垣根なくこの学院最強を決めるという、試験でもあるけど同時にお祭り感覚でも行われる武闘大会なの。普段の鍛錬場ではなく、施設内にある闘技場施設により行われるわ」


 クレアは説明する。

「そこに私の双子の兄も出るからそれで実力が十分わかるわ」

「双子の兄?」

「ええ。私達には兄がいるの。第一王子ランスロット。この学院最強と呼ばれている剣士よ」

 そうクレアは言った。 


 それは鍛錬場での出来事だった。

 一人の金髪の少年がいた。美しい顔立ちをしているが、それと同時に気品のある少年だった。その少年は強化服を着て、そして剣を構えていた。

「はああああああああああああああああああああ!」

 それに対峙する別の少年。表情が強張っている、圧倒的なまでの相手の雰囲気に飲まれていた。痺れを切らした彼は破れかぶれになり、剣を持って襲いかかる。

 一閃。二人が交錯したと思った。

 ドサリと倒れる音がする。どちらが倒れたかは言うまでもない。

 観客の女子生徒達が「きゃあああああああああああああ」と黄色い声を出す。

 彼は美形でかつ剣の腕も立つ為、当然のように多くの女性ファンがいた。

「やっぱりランス様って最高よね」

「速すぎて剣が見えなかったもの」

 第一王子ランスロット。妹達には「ランス兄」の愛称で呼ばれる事になる。剣士学院最強の剣士と目されており、また史上最年少かつ学生の身分ではあるが剣聖の称号を得ている。

 名実共に学院始まって以来の天才だと目されている。

「さて」

 彼は優しい笑みを浮かべた。

「次は誰がやるかな?」

 幾多の男子生徒達。どれも学院では強者(つわもの)として通っている者共である。

 彼等全員は恐怖のあまり顔が引きつっていた。

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