リュミエールとの闘い


「参りますわ」

 そう言った彼女ーーリュミは柄から剣を引き抜く。夕日の光を受けて、剣先が光を放つ。

「そちらは抜かなくていいんですの?」

「女の子を傷つけるわけにはいかない」

「あら。優しいんですわね」

 リュミは笑みを浮かべる。

「でもーー」

 しかし、躊躇いもなく斬りかかる。その判断は姉ーーとはいえ、第三王女という事を考えると姉は二人いるだろうーーフィルの事だ。フィルと同じく躊躇いのない判断であった。

「その油断が命取りですわ」

 斬り掛かってくる。鞘で持って、それを受け止める。鞘は中身と同等の硬質な物質で出来ているようだ。凹みもしない。

 斬れはしないが、これだけでも闘えないわけではないだろう。

 相次ぐ剣撃。

「甘いですわ」

 予想の範囲外だった。この娘は足癖が悪いようだった。遠慮なく回し蹴りを放ってきた。

 何となくスカートなので、そんな事をしてこないと勝手に先入観を持っていた。やはり戦闘においては固定概念を持ち込むのは良くなかった。もしかしたらブルマ的な履き物を見られても良いように穿いていたのかもしれないが。

 だが、意識の外からの攻撃と言えども動体視力の範囲に余裕があれば避ける事は造作もない。リュミの攻撃はトールの意識からしてあまりに遅すぎるという事であった。不意打ちや意識外の攻撃を加見してでも、被弾するには速度がなさ過ぎだ。

 蹴りが放たれる。トールはそれを造作もなく避ける。

 スカートが舞い上がった。当然のように下着が見える。ひらひらのついた白のパンツであった。流石に姉妹揃ってノーパンという事もなかった。

「はぁ~」

 トールは溜息を吐く。

「なんで溜息を吐かれてるんですの? 私のパンツが見えた事ってそんなにがっかりするようなものなんですの?」

 そう、リュミはショックを受けた様子で言う。

「ち、違う。穿いてたから安心したんだ」

 トールは言う。

「穿いてたから安心した? パンツを?」

 リュミは困惑していた。

「いや。君のお姉さんが穿いてなかったから」

「穿いてなかったんですの? お姉様。フィルフィーレお姉様の方ですわよね?」

 リュミはそう聞いた。

 ああ。そうか。第三王女という事は上に二人いるのだろう。彼女は言わば三姉妹の三女だ。他に男の兄妹がいるのかもしれないが。

「は、はい」

「な、なんて事ですの。フィルお姉様がそんな痴女(ビッチ)だったなんて。ああ、あの線がありましたわ。ノーパン健康法、その可能性がありますわね」

 リュミは言う。

 だが、トールは思った。フィルは単純に勘違いをしてパンツを穿いてこなかったというだけでそういう性的嗜好をしているわけでもなく、健康法の為に穿いていなかったわけではなかったという事に。

「ともかく、続けますわよ」

 リュミは気を取り直す。そうである。今はそんなノーパンがどうとか気を取られている場合ではなかった。

「はあああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 リュミは剣を振りかぶってくる。結局は如何に相手を傷つけずに制圧するかをトールは考えていた。

 やはりここは取り得る選択肢はひとつだけだった。

「なっ!?」

 武器を打ち落とす、より他にない。握っている力よりも強い力を刀身に受ければ、必然手放さざるを得なくなる。

 路面にリュミの握っていた剣が転がる。

「もうやめにしよう。これでわかっただろ。君では僕に勝てない」

 トールは言う。リュミは使い手としての力量がそこまで未熟ではない。馬鹿でもないだろう。力量差がある事がわからない程の未熟さではない。

 大体、彼女も本気でトールを殺すつもりなどないのだ。これは小手調べの言わば茶番である。

「フィルお姉様に勝ったというのは嘘や紛れではないようですわね」

 リュミはそう言った。

「まあ、そうなるね。否定のしようはないよ」

「……お姉様はあなたに負けた後、どうなされましたか?」

「結婚を申し込まれたよ。王位継承戦があるとかで」

「あのお姉様ならまあ、そうなりますわよね」

 妹故か、姉の性格はよくわかっているのだろう。

「なんなんだ? その王位継承戦っていうのは」

 無論、王様を決める為の戦いみたいな事はおぼろげではあるが理解はできている。

「王位継承戦というのは王位を継承する為の戦い。ですが、基本的には剣での戦いが想定されておりますの。この国では剣は剣よりも強し、の理念で国営されていますから」

 なんだ。その剣は剣よりも強しとは。三度の飯より飯が好きみたいな。意味のない繰り返し言葉ではないか。

「ですのでフィルお姉様はあなたを取り込もうとしたのでしょう。強い人が味方にいれば有利ですから」

「そうか。それで」

「あなたの実力はわかりましたわ。今日のところは失礼します」

 そういってリュミは帰って行った。

「……待て。寝ている連中を」

 寝ている男達を放ってリュミは帰ってきた。

「はあ」

 再三の溜息をつく。仕方なく邪魔にならないところに置いてトールも寮に帰った。

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