第12話
辺りはすでに夜。
状況を理解できない早苗を他所にザシキワラシは旅館の周りを走る。
目の前に避難人を乗せた車の列。
「止まって!危ない!」
ザシキワラシは車の上を飛び越え、二人はそのままの勢い余って木々の中につ込み地面に転げた。
柔らかい物にぶつかったと思い顔を見上げると姉ノ座敷童が二人を抱きとめていた。
「ネーネ?」
「はい、ネーネですよ。早苗さん、弟を取り戻してくれて有難う」
「友達だもの当然だわ、でもね何だか胸の詰まりがまだ取れないの、まだ終わってない気がして」
宿泊客を乗せた車が次々と下山していく。
「早苗ー!どこに居るの?」
遠くから両親が早苗を呼ぶ声がする。
「お母さん達だわ!私行かないと」
早苗が両親の元に行こうとしたその時、姉ノ座敷童が早苗を行かせまいと抱く手を力ませた。
「私から離れては駄目、此れからもっと恐ろしい呪いが山を覆います。でも安心してくださいコレが最後の悲劇ですから」
真っ暗な木々の奥からザシキワラシとよく似た子供が此方に歩いてくる。
違いがあるとすれば皆、赤い瞳で頭にはツノが生えている事。
1人2人では無く300、400、イヤそれ以上、皆円で囲む様に旅館に向かって群がっていく。
その中一人の子供が早苗に近づいた。
貴方には手のひら程の大きな蜘蛛が乗っている。
「僕達は人間を許さない、だけど貴方は許す。僕達もこの子が大好きだから」
子供はそれだけ言い残し、群れの中に消えていった。
子供達は旅館を囲むと遠吠えを上げた。
遠吠えは突風を起こし木々を激しく揺らした、鳥達は空へ逃げ惑い動物達は一斉に巣穴へと逃げる。
そして旅館はバチバチと音を立てたかと思うと勢い良く燃えさかった。
「キャー!!」
旅館の中からお婆ちゃんの悲鳴が響いた。
「待って!お婆ちゃんがまだ中にいるの、其れにお母さん達もまだ下山してない、このままじゃ死んじゃう!」
「私にもどうするのともできません、炎はいずれ山全体を覆い尽くすでしょう」
「そんな・・・」
早苗は姉ノ座敷童の胸ぐらにしがみ付き体を震わせた。
ザシキワラシは涙を流し怯える早苗を見て身を乗り出し一人旅館に駆けた。
漂う熱気に屈すること無く、前に立ち胃のうる様に膝をつく。
咲いてくだされ、咲いてくだされ
炎はザシキワラシの祈りを聞き入れたかの様に大きく揺めき、弾けた、飛び散った火花が地面につくとその場所からサクラソウが咲いた。
ボンッポンッとまるで花咲か爺さんが灰を蒔いているかの様にとめどなく咲き続け、炎は一面のサクラソウ畑へと姿を変えた。
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