第10話

ザシキワラシは早苗に逃げられてしまったショックで呆然と立ち尽くしていた。


「僕、嫌われちゃったのかな?もう会いにきてきれないかもしれない」


どこからともなく声が聞こえてくる。


『可哀想』

『君は騙されたんだよ』

『人間は無慈悲な好奇心と悪意に満ちている。君が傷付こうがあの人間は何とも思わない』

『可哀想、可哀想』


ザシキワラシの悲しみの器が満たされ、其れはやがて呪いへと変わる。

ザシキワラシは大声で泣いた、山は地鳴りと共に震えた。


「なえ!なえ!ごめんね僕が悪い子だから、、う、う」


『そうだよ、呪うんだ!そうすれば君は自由になれる』


ザシキワラシの体から煙が上がり、大人だった姿は元の子供の姿に戻る。





お婆ちゃんは早苗の手を掴み、全従業員達の集められた広間に連れてこられた。

お婆ちゃんは従業員達に向かって叫んだ。


「良いね!お客様の安全が第一に考慮し速やかに下山させな!隊を乱すんじゃ無いよ!」

「「「はい!!」」」


其々が持ち場に着く中、早苗はお婆ちゃんの手を放り解こうとした。


「おばあちゃん待って!私行かないと!」

「駄目だ!自分の落とし前は自分で付けな!」

「聞こえるの!ザシキワラシは泣いてる。私もう一度謝りに行かないと!」

「あの恐ろしい姿を見たろ?其れでも友達って言えるの?如何してそんなに座敷童に執着するんだい?!」


早苗は一瞬迷ったが、直ぐに手を振り解き、別棟に走った。


東の宿の廊下は避難に急ぐ人達でごった返していた。

満員電車のよう通りを縫うように進む、

頭の中でお婆ちゃんの言ったことが何度もこだまする。

如何してこんなにもザシキワラシに執着しているのか?

友達だから?確かにあんな素敵な友達他にいない、如何して素敵だと思った?

町の友達と何が違うの? 


道中、激しい揺れが起こり早苗はバランスを崩し両膝をついた。

それと同時に胸ポケットに入れていた折花が床に落ちる。

そう、座敷童がくれた二人の名前が書かれた折花。


「大丈夫か?!」


裕也が心配して駆け寄って来たが早苗は見向きもせずに、折花をただ見つめていた。

あの蜘蛛の怪物の言う通り自分はザシキワラシを傷つける存在なのかもしれない、本当は出会わない方がお互いのためだったのではないだろう…。

裕也が言った。


「折り紙?それがどうしたんだ?早く避難しないと」


『それがどうした』その言葉が早苗の心に深く刺さり、町での自分が走馬灯の様に蘇る。



幼い頃から草花が好きでよく友達とお花を積みに出かけたりしていた。

だが其れも小学校低学年までがピークだった。

皆がスマホを持ち始め、気づけば周りはテレビやゲームの話題ばかりを話すようになっていた。


ついこの間までは、花を差し出せば「とても可愛らしい」と言って笑い合えていた、今だって「可愛らしい」と言ってくれるが其れも愛想でしか無い、当然だ興味がないのだから。


こちらも同じ、好きな女優や流行のゲームを見せられれば上部だけの愛想で返す、興味が無いから。

でもザシキワラシは違った、一緒に感動してくれる。喜んでくれる。嘘偽りない笑顔で、

其れが嬉しくて、キラキラで、大好きだった。


だから、謝りに行かないと、自分達の大好きが壊れる前に!

早苗は床に爪を立て拳を強く握りしめると、再び走り出した。

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