第9話
朝起きると館内に生えていた草や苔が茶色く枯れていた。
それは別棟も同様。
早苗は覗き窓に生えている枯れた草を手で引きちぎろうとした。
「………なえ?」
突然、手を掴まれ中へと引っ張り込まれた。
体は壁をすり抜け気が付けば大人の男性に抱きかかえられていた。
早苗は直ぐにその男性がザシキワラシだと分かった。
「なえ、会いたかった」
「ザシキワラシ、ごめんね此処から出して上げるって約束したのに、私…約束を守れないどころか貴方自身を忘れてしまうところだった」
「うんうん、良いんだ、俺も本当のことは分かっていたんだ、此処から出る術はないって事…だけどなえが出してくれるって言った時、嬉しくて言えなかった」
ザシキワラシは強も優しく早苗を抱きしめ耳元で囁く。
「なえ、これからも一緒にいてくれる?」
「勿論、友達だもの」
「うん!嬉しい、ずっと一緒…此処で永遠に…」
ザシキワラシの言葉に背筋が凍った。
早苗はザシキワラシを押し退けた、ザシキワラシは怯えた様子の早苗を見てキョトンとした顔をする。
「どうしたの?ずっと一緒に居てくれるんだよね?」
ジリジリと近ず居てくるザシキワラシの足取りに合わせ後ずさる。
ザシキワラシの背後から無数の黒い木の枝が伸び、逃げ場を狭めていく。
早苗は思い切って覗き窓のある壁に走った。
「待って!!なえ!!」
体が壁をすり抜け外に出ると同時に、壁に無数の木の枝が突き刺さった。
一歩遅ければ串刺しになって居たかもしれ無い。
早苗は直ぐにその場から逃げた。
「なえ!お願い行かないで!僕を…僕を一人にしないで!!!」
◇
早苗は自室の隅で蹲っていた。
怖かった。
早苗の様子にお母さんが心配して尋ねても来たが、早苗は首を横に降るばかりでその場から動こうとはしなかった。
夕暮れ時、お婆ちゃんが部屋に尋ねて来た。
「お婆ちゃん御免なさい、私座敷童に会っていたの…」
力の無い声、お婆ちゃんは向かい合うように座り込み語り始めた。
「私もね幼い頃座敷笑い師と友達だったんだよ」
「お婆ちゃんも?」
「ああ、でもそれがいけなかった」
「如何して?」
「あの子は純粋だ、どんなに酷い事をされようと決して人を呪おうとはしない、例え言葉を失い感情失ったとしてもね」
「あの子はとても感情的でお喋りよ?」
「其れは早苗ちゃんが友達になったからさ、人間との繋がりこそが座敷童の力の根源だからね。
だからこそ仲良くなってはいけないんだ、仲良くなれば、喜びを知り悲しみを知り、、そして呪う事を思い出す、早苗ちゃんも見たんだろ?」
早苗はザシキワラシの恐ろしい姿を思い出し、また顔を伏せた。
ザシキワラシがあんな姿になってしまったのは自分のせいだ、3日もほったらかしにしてしまったから、悲しみで呪いに目覚めてしまったんだ。
「お婆ちゃん、ザシキワラシを部屋から出してあげる事はできないの?」
「其れはお婆ちゃんにも無理だ、なんせ部屋の封印を施したのは私のひいお婆ちゃんだからね。
もう直ぐ山に災が起こる。でも安心しな、何があろうとも座敷童は存在しているだけで幸運を齎す。代わりさえしなかればね悪いようには決してならない」
しばらくすると、旅館全体が小さく揺れた。
「来たね。避難を急ぐよ!」
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