第8話

あれから覗き窓は雑草が生えたまま、ザシキワラシには会えず、呼びかけても返答がない、一度ハサミで刈り取ろうともしたが雑草は思った以上に固く切ることはできなかった。


会えないまま3日が経った頃、早苗は思いつめる様になった。

ザシキワラシは本当に別棟にいたのだろうか?もしかしたら自分の妄想が創り出した厳格なのではないかと。


姉ノ座敷童だってあれから一度もあっていない、そもそも妖怪なんて存在するのだろうか?


普通に朝食を食べ、外に遊びに行き、両親に今日あったことを話し、眠りにつく、いつも通りの夏休み。


早苗は布団越しに自分の胸に手を当てた、まるでぽっかりと穴が開いてしまった様、

もしあの子が厳格だとしたら、どうしてこんなにも悲しい気持ちになるのだろうか?


「……別棟に行こう」


早苗は深夜の暗闇の中、懐中電灯を持って別棟に向かった。

この時間帯は夜更かしをするほと達が決まっている。

だが今日はどの部屋も静かで夜更かしをする人はいない、早苗はどんどん先へと進む、

不思議なほど静かだイビキ一つ聞こえない。


「痛っ」


後ろから何かが飛んできた。

振り向くと床にお手玉が落ちていた。

ライトで奥を照らしたが誰もいない。

気にせず先へと進む。


また後ろからお手玉を投げられた。

早苗は小声で問いかけた。


「誰かいるの?」


「…………」

「…………」

「…………」


声が聞こえる。

虫の羽音程の小さな声、誰か居る…いや、何かが居る。

それでも進むしかなかった。

1個、2個、3個…進めば進むほど飛んでくるお手玉の数は増えていき声も大きくハッキリと聞こえ始める。


「あの子を傷つける奴は許さない」

「あの子には近けさせない」

「帰って」


突然、天井から大量の手玉が嵐の様に降り注いだ、堪らずしゃがみこみ頭を庇う。


「あの子ってザシキワラシの事?お願い会わせて!私謝らなきゃ活けないの」


お手玉が止んだ。

恐る恐る顔を上げると、壁が爆風を上げて吹き飛び、煙の中から見上げる程大きな化け物が現れた。

蜘蛛の体に幼子の首。


「「「ならココで消えろ!!」」」


化け物はベビの様な舌と牙をむき出しにし襲いかかってきた。

逃げ惑う早苗、幸い廊下は化け物には狭く壁を破壊しながら追いかけてくる為、すぐには追い付いて来ない。


「「「墜ちろーー!!!」」」


安心したのもつかの間、早苗の背丈もどある草が生い茂げ行く手を阻む。

死に物狂いで草をかき分け行き着いた先は何と行き止まりだった。


化け物はすぐ目の前まで来ている。

もう駄目だ、そう思ったその時、目の前に姉ノ座敷童が現れ早苗を庇った。


「辞めなさい!こんな事したった弟は喜びません」

「「「如何して庇うの?裏切ったのは人間なのに?」」」

「早苗さんを失えばあの子が悲しむことぐらいわかるでしょう」

「「「……そうだね、でも関係ない、ひと時の悲しみなんて、一生檻に閉じ込められる苦痛に比べたらちっぽけなもの、僕達はあの子が大好きだからそのためにあの子を傷つけないといけない」」」


姉ノ座敷童は説得は無意味と判断するやいなや早苗の方を向き、両手で早苗の目を隠した。


「後は私に任せて、貴方は早く目覚めて……」




気がつくと早苗は布団に寝ていた。

あれは夢だったのだろうか?いや、夢じゃない確かに現実に起こった事だ。

早苗はそう言って持っていた懐中電灯を強く握りしめた。

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