第7話


早苗と裕也は別棟に向かうため廊下を足早に進む。


「本当に座敷童に会えるのか?」

「嘘なんてつかないわ、素敵なの!きっと裕也も気に入るはずよ」


裕也は早苗から座敷童の話を聞いたものの俄かには信じられず半信半疑だった。


二人は別棟の鎖を外し中へと入っていった。

中は相変わらず埃っぽく蜘蛛の巣があちこちに見受けられる。

ただ一つ前と違って居たのは、壁や床の隙間の彼方此方から苔や雑草が生えている事だ。


それは座敷童のいる部屋に近づけば近ずく程多くなって行き、着く頃には目の前が緑色だった。

座敷童の部屋の障子には相変わらず大量のお札、が貼られており真昼でも不気味に見える。

裕也は障子を開けようとしたがビクともしない。

早苗は障子の一部を破いて中を覗こうとしたが背の高い雑草が視界を遮って見えない。


「ザシキワタシ!私よ!聞こえる?」何度も呼びかけたが応答がない。

裕也は鬱街の眼差しを早苗に向ける。


「本当に此処に座敷童がいるのか?」

「本当よ嘘じゃない、だっていつも会っているもの」


結局ザシキワラシを外の出すことはできなかった。

早苗は裕也を連れて裏の覗き窓に連れて来た。


しかし覗き窓も雑草にふさ塞がれて居て中を覗くこともできない。

朝来た時は雑草なんてなかった一体何が起こっているのだろうか?


その日は結局諦めて帰るしか無かった。




今夜はお祭り、大庭には何百という提灯が吊るされ、多くの出店と着物を着た観光客たちで賑わっていた。


早苗も裕也と共に屋台を回っていたが、乗り気ではないとばかりに落ち込んでいた。

お祭りだって本当はザシキワラシと回りたかった、花火を見て「綺麗だね」と言いながら一緒に笑いたかった。

一番ショックなのは約束を守れなかった事だ、外に出れると聞いてあんなに喜んでいるザシキワラシを裏切ってしまったかの様で申し訳なかった。


裕也は元彼方此方指差して、あれは面白そうだの、何々は美味しそうだの言って元気付けようとした。

そうこうしているうちに裕也の手には焼きトウモロコシや綿あめなどの食べ物でいっぱいになってしまった。

其れでも早苗の元気は戻らなかった、見兼ねた裕也は持っていた食べ物を一気に食べ尽くしコーラで無理やり流し込むと早苗の手を掴み大庭の外に連れ出した。


祐也が連れて着たのは旅館の屋根、最上階の娯楽室から梯子で屋根裏に登りそこから屋根の上に登ることができる。

本当は登ってはいけないのだが、裕也にとっては早苗に元気になってもらう方が重要だった。


「凄いだろ?昨日見つけたんだ、ほら祭りの灯があんなに小さく見える」

「有り難う、なんかゴメンね凄く気を遣わせてるみたいで」

「謝るなよ」


早苗は空を見上げた。

町では見られない満点の星空、天の川が見える。そうか今日は七夕だ、良く晴れた今日二人は出会えたのだ。

この空もザシキワラシと見たかった…。


早苗の表情は何時もの腕白さと打って変わって儚げで大人びて見えた。


「…どうしたの?」


裕也はいつの間にか早苗の顔に見とれていた事に気づき、恥ずかしくなってそっ方向いた。

その様子に早苗は声を上げて笑った。


何が可笑しいのか自分でも良くわからなかったが、裕也の耳まで真っ赤になった顔がお腹を抱え込むほど可笑しかった。

いつも間にか二人笑い合い空を眺めていた。


そんな中祐也が独り言の様に呟いた。


「俺じゃ駄目?」

「え?」

「そのザシキワラシの代わりにはなれないけど、今夜ぐらいは俺といて欲しいな……なんて…」


裕也の耳朶がまた赤くなる。

慰めてくれての言葉だろうか?早苗にはその意味がわからなかった。


「?既に一緒にいるじゃない」

「そ、そ、そうだな、悪い変なこと言った。あーそうだコレやるよ」


裕也はポケットから何かを取り出し早苗の首に巻いた。

手に取ると其れは勾玉のネックレス、灰色の鈍い色でちょっとだけ重い。


「綺麗…」

「だろ?俺の宝物だったけど上げる。だから元気出せ」


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