第3話

川から帰り、早苗は真っ先に別棟に向かった。

ザシキワラシは早苗が来たことに気づくと覗き窓から顔をのぞかせた。


「ザシキワラシ、今日ねお母さん達と川に行って来たの、それでねコレあげる」


早苗は手に持っていた花の鉢を見せた。

愛らしいサクラソウの花。

ザシキワラシは花を受け取ると、匂いを嗅いだりツンツン触ったりした後、一口で食べてしまった。

早苗は土だけが残る鉢を受け取るも、思いもよらない行動に唖然とした。


「もしかしてお腹空いてるの?」


カバンの中を探ってみるも飴はもう無い、代わりにカリカリ梅があった。

川に遊びに行く際、塩分補給にと持って来ていたものだ。


物欲しそうな顔をするザシキワラシ、早苗は仕方なくカリカリ梅を渡した。

ザシキワラシは受け取ると直ぐ袋を破り、なんの躊躇する事なく口に放り込む。


すると、ザシキワラシは両手で口を押さえ立ち上がりジタバタと激しく足踏みしだした。部屋の中から「ん〜!ん〜!ん〜!」と言う悶える様な声が聞こえてくる。

やはり不味かっただろうか?


心配になり中を覗こうとした時、ザシキワラシの腕がスッと覗き窓から伸びて来て、「もう一つ頂戴」という仕草をした。

早苗がもう一個渡すとまた部屋の中からドタバタと暴れる音と「ん〜ん〜」と言う声がして、かと思えばまた手が伸びてきて強請する。


気に入ったのだろうか?

その後、渡しては強請られるといった流れが5回ほど繰り返えされた。


満足したザシキワラシはある物を早苗に手渡した。

それは折り紙でできた折花、元は鶴と紙風船だったものを折り直して作られた物だ。

花びらの所には丁度、二人の名前が見える。


早苗はプレゼントに感動した。

出会った時の折り紙、そして二人の名前、そしてそして大好きな花、まるで夏の思い出を詰め込んだ結晶の様。


「素敵!貴方はとてもロマンチックな人だわ!一生大事にする!」


ザシキワラシは早苗の笑顔をしばらく見つめた後、気恥ずかしくなったのか部屋の中に引っ込んでしまった。


「ザシキワラシ?お〜〜い、如何したの?」




その夜、ザシキワラシは一人、床に寝転がり天井をただボーーと見つめていた。


「……………なえ……」


ザシキワラシの脳裏に早苗の笑顔が浮かぶ。

ザシキワラシは恥ずかしくなって、両手で顔を押さえ床を転げ回る。


今、ザシキワラシの心には早苗に対する好意と会いたいという気持ちが入り混じり、そして気づいてしまったのだ『独りぼっちは寂しい』という事に。


転げ回るのをやめ、足を抱え込み袖を噛みしめる。


「なえ…なえだ、だい、だーいースキ」


ザシキワラシが悶え転げるたびに部屋の畳から草花が伸び、次第に大きくなっていった。

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