ビターエンディング
貴女には貴女の人生がありますから。
そう言って突き放したのは僕の方だった。その晩、僕ははっきりとお嬢様を拒んだ。僕だって、あのお方と結ばれたかった。最期まで添い遂げたかった。けれどそんなこと、できるわけがなかった。僕は所詮一介の使用人、対して彼女は有力貴族の一人娘。跡取りとなる彼女に僕は釣り合わない。というより、もしそうなってしまえば当主様に会わせる顔がない。命の恩人に、恥をかかせることなどできない。だから、僕は彼女の泪を選んだ。
僕にこれから行くあてはない。もう帰る家は、仕える主君はいない。仕事もないし、お嬢様の笑顔を見ることも出来ない。お嬢様との縁が僕の人生のすべてを形作っていたから、僕の人生にはもうなんにもない。
この悲恋を身分や時代のせいにしようとしたけれど、結局のところ拒んだのは、僕なのだ。
ただ、僕の選択に間違いがあったとは思っていない。情に流されて彼女の人生を穢すことなど、僕にはできない。お嬢様も僕の性格をよく知っているから、もしかしたら僕の真意に気づいて、
……もしかして、彼女は全て気づいていたのだろうか。僕の隠し事も、辿る結末も。だからこそ、彼女はあのとき、僕にそっと口づけを。
涙が止まらなくなった。抑え込んでいた全てが流れ出る。この選択は間違いではなかった。むしろ正しかった。彼女だってそれを知っていた。その先にあるのは誰も幸せにならない結末。僕もお嬢様も、そんなことを分かっていた。分かっていながら、その道を選んだ。
もう彼女には何も伝えられないけれど、ただ幸せになって欲しいと、そう願った。空に佇む満月にただただ祈った。
だからどうか。
どうか僕の、
……いいえ。
どうか、わたしのことなんて忘れてください。
足元に咲いた勿忘草が、ただ夜風に揺れていた。
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